Neetel Inside 文芸新都
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黒兎物語
35 沈黙の戦争

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 丙家の管理下に置かれた魔の都市ガイシの異常は丙家監視部隊トクサの耳にも届いていた。彼トクサは覚という妖怪の亜人である。
亜人である彼が亜人差別主義の風潮の強い甲皇国で高官を勤めていられるのは乙家の権力者ジーンの保護下にあるだけではない。
覚という妖が持つ読心術の能力・・・この力で何千人もの裏切り者を甲家や丙家に売り渡す見返りとして、甲皇国内の
亜人の対遇を改善する取引きをし続け、自らも努力してきたからである。

現在、彼トクサは甲皇国のトクサ邸の地下室で
遠く離れたミシュガルド大陸に居る傭兵部隊の指揮をしている。
いわば、オペレーターのような存在だ。
今回のガイシでの異常を受け、彼は即座に傭兵部隊を編成した。
隊長はあのゲオルク、ガザミ、そしてヒザーニャが居た。
そうかつて亜骨国大戦でアルフヘイム敗北を阻止したアルフヘイムの英雄たちである。
大戦終了後、彼等は傭兵となり、新たな戦場を求めてミシュガルド大陸へと渡ったのだ。
スーパーハローワーク連合国のクエスト発注所を通じて、トクサはゲオルク達と連絡をとり、
ガイシに派遣されたモツェピ大佐、オークトン曹長の亜人系の兵士たちの居る甲皇国の兵士たちの
救援に当たるよう依頼された。


「・・・モツェピ大佐とオークトン曹長の部隊は感染者の掃討に当たっている・・・それに対し、カール中佐とアレッポ大尉の部隊は閉鎖活動か・・・」
本来の序列ならば、感染者の掃討という危険な任務に当たるべきはモツェピ大佐ではなく、カール中佐であるべきだ。だが、特殊撃滅大隊の長という立場上、
モツェピ大佐の部隊が必然的に駆り出されることになる。
事実、モツェピ大佐の部隊には亜人系の兵士達も居た。支援として、亜人の血を引くハーフオークのナキシ=オークトン曹長の兵団が派遣されているのも頂けなかった。

「・・・・丙家の奴等め 小賢しい真似をしおって こんな危機的状況にまで見え透いた差別主義を持ち込んでくるとは・・・」
覚の亜人トクサの額にある第3の目が開く。怒りに滲んだその眼光は、
薄汚い丙家の軍人共の策略を睨みつけていた。
(彼等は亜人とは言え、甲皇国の為に魂を捧げた兵士だ・・・彼等の汗はこの世のどんな塩よりも辛く、彼等の血はこの世のどんな赤よりも濃い・・・彼等の想いを利用しようとする不浄な輩の思い通りになど絶対にさせん)
トクサは甲皇国の高官であるが、完全に甲皇国に魂まで捧げた訳ではない。彼が魂を捧げるは、甲皇国で暮らす亜人の地位向上の為。亜人差別主義者の丙家の増長を許すわけにはいかない。

彼トクサは、ミシュガルド現地で活動しているゲオルク隊を
数名の亜人系の通信兵たちと共に この甲皇国のトクサ邸からオペレートおよびナビゲートするのだ。

「・・・彼等の支援に向かった傭兵団は?」

「・・・無事に到着した模様です

魔術により、ゲオルク達の生命反応を示したレーダーを
見ながら通信兵が答えた。


「現状は?」
「…イザナギ地区で退路を絶たれ、孤立していたモツェピ大佐の部隊の救出にガザミ隊が向かっています。
ゲオルク隊はジンム地区にて展開中だった大佐の部隊の撤退の支援を無事に完遂、ガザミ隊と合流する予定です。」

「首尾は上々のようだな Dr.グリップの研究所に向かったヒザーニャ隊はどうなっている?」
「それが どの研究所もダミーのようで、以前捜索中です。」
「とにかく急げ。これ以上、亜人の犠牲を増やしてはならぬ」

トクサの静かな戦争が始まるのであった。


※この度、本エピソードにてトクサのオペレータ役的なポジションとして登場していたロウですが、
同キャラクターの作者様によるキャラクターシートにおける設定を踏襲出来ていないシーンに
なり兼ねないと判断し、登場シーンをカットいたしました。
私としてもキャラ設定を無視し過ぎた身勝手な行動でした。
黒兎物語は、ミシュガルド聖典の最大の魅力「群像劇」を最大限生かすよう努めています。
しかしながら、私なりの独自解釈と、作風で他作者様のキャラクターを描写するが故に
キャラクターの作者様の意思にそぐわない描写になる危険性が常にあります。
私はその問題の解決策として、
黒兎物語は他のミシュガルド作品を意識してはいるが、それらとは別次元のパラレルワールドの物語であると
いう前提の元に在るとしています。ですが、たとえ別次元の世界の出来事であろうと、
看過できない描写であると作者様が判断された場合、耳を傾け対処していくつもりです。





       

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