Neetel Inside 文芸新都
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黒兎物語
38 盲目な愛

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~ガイシ北部地下水路~
ダニィの推測通り、地下水路に配備されたカール中佐の警備兵は2個小隊(1個小隊20名として)程度だった。理由として、感染者達が蔓延っている可能性が現時点では考えられなかったからであるが・・・現場の兵士はそうは思ってはいないようだった。

「いざ感染者共が押し寄せてきたら俺達ごとここを封鎖すりゃあいいって算段だ。 メンツを見てみろ、どいつもこいつもゴミ扱いされてる奴等ばかりだろォ?」
「後輩に暴言暴力吐きまくるクソデブのサーノン伍長に、後輩に稽古用の胴着と防具を売りつけてマージンを貰って汚く稼いでやがるサーダン伍長と・・・分隊長も皆に煙たがられてる連中で固めてやがるのが良い証拠だな」
「中佐殿も飄々としちゃあいるが意外とそーいうところは 見る目があるっつーか何つぅーか・・・」
陰口を叩く兵隊達を余所にダニィは水路を着々と進んで行った。
道中、ダニィは敵と遭遇してムダに争うリスクを避けたかった。この閉鎖空間ではダニィのエコロケーション能力は絶大な効果を発揮した。進みながら、瞬時に空間と敵の配置を把握し、状況に出くわす前に攻略法を見つけ出すことなど朝飯前だ。
(・・・クワァンタム)
ダニィのギターの音色をクワァンタムが加工し、金属音などの物音や、人の声、足音に偽装する。いわば、自由自在のサウンドエフェクターだ。敵は偽物の物音や、仲間の声に釣られて明後日の方向におびき寄せられるのだ。その隙に乗じて奴らの死角を通過していった。だが、どうしても敵兵を始末せねば通過出来ない箇所もあった。敵兵をおびき寄せても持ち場を離れない奴が居るからだ。
 「ぐわがッあッ!」
ダニィの両足が背後から敵兵の首を挟みこむ、耐えきれず後方へ倒れ込む敵兵。このままでは後頭部と床に挟まれ、金玉を打ち付けられてしまう。ダニィはすかさず、上体を右側に捻り、その勢いを利用して落下速度を早めるために床を踏みつけるかの如く、右足の足底を一直線に叩きつける。
「く・・・か・・・ほぁッ!」
ダニィの両音と股関が敵兵の首をキリキリと激しく絞め上げる。絞め上げられた敵兵は必死にクラッチを解こうともがくが、自身の左手はダニィの左足の下敷きになっており、右手に至っては首と一緒に締め上げられ、へし折れている。ダニィの様なコウモリ人ベースの黒兎人族はウサギベースのセキーネ、人間ベースのディオゴに比べると脚力は弱い傾向にある。というのも、翼があるため跳躍の際に脚力はそこまで必要とはされないからだ。だが、それでも
ダニィの脚力は常人の4倍はある。
蹴られれば内臓破裂や骨折は免れないし、絞め上げられれば首の骨を折られて死亡又は全身麻痺などの深刻な後遺症は避けられないだろう。
最早、敵兵に残されているのは死だけだった。
「・・・悪く思うなよ」
ダニィの脚カは敵兵の首をへし折る。力なきマリオネットと化した敵兵をダニィは水路へと蹴り落とした。
水の音はクワァンタムの超音波で消音相殺した。 
今のダニィの目に最早、モニークが生きていた頃のあの優し気な眼差しは宿っていない。あるのはただ、モニーク復活の為なら誰であろうとも犠牲に捧げ、自らの手を穢すことも躊躇しない愛に盲目すぎる獣の眼差しだった。

死体を始末したダニィは水路内を市街地方面へと進んで行く、そして感染者達の群れと出くわした。
(クソ・・・やっぱりこっちにも流れ込んでいたか!)
奴等は町から流れ込んでいる。ならば、奴等の塞ぐ道の向こう側にガイシへと続く道がある。
(何とかしてこいつらを退かせられないだろうか?)
ダニィの脳裏に描かれたレーダーに、一つの作戦が浮かんだ。
水路を巡回している敵兵達をここに集結させるという手だ。
「助けてくれー 誰かあー」 
ダニィのギターの音色をクワァンタムが敵兵の悲鳴へと偽装する。
そう、感染者達に敵兵の仲間が襲われているように見せかけるためだ。
ダニィの目論見通り、敵兵達は感染者達のいる通路にまんまとおびき寄せられた。
「キシャアァアー!!」
獲物を求めて感染者達は兵士達のもとへと飛び込んで行く
「感染者だ!撃て!! 撃てーッ!!」
感染者と兵士達の大乱戦が始まった。感染者達が肉片を撒き散らし、
兵士達が弾丸の両嵐を降らせる。
「そうやってお前ら同士 互いにしごき合ってろ。
思春期まっしぐらのバカップルみたいにな」
争い合う両者を余所にダニィは彼等の死角を通り抜けていく。

ダニィはこうしてガイシ北部へと潜入したのであった。

       

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