Neetel Inside 文芸新都
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黒兎物語
39 闇を漂う者達

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 トクサの指揮の下、ゲオルク隊とガザミ隊はイザナギ地区に取り残された亜人系甲皇国軍兵を救出した。
救出した彼等をキャンプに残し、ゲオルクとガザミは隊を率い、ヤーヒム大佐とオークトン曹長の隊の救援へと向かうこととなった。隊は随分と消耗しているため、出発は2時間後とやや長めとなった。
作戦会議を終え、ゲオルクとガザミは一服ついていた。

「・・・ミシュガルド人参の葉巻だ 一服つくかね?」
微笑の息をフッと出しながら、ゲオルクはガザミに優しく人参の葉巻を差し出した。

「気が効くねぇ~ 傭兵王」
ガザミはハサミの手で人参を優しく挟むとロへと持ってゆく。ハサミの手ではライターもマッチも掴めないので、ゲオルクはすかさずマッチを彼女の口元へと持って行った。

「久し振りに吸うがよォ・・・この甘味が癖になるよなぁ~」
「・・・そうだな」
2人とも10年前の亜骨国大戦より老け込んでしまっているが、その時よりもやや落ち着きが見える。 
特にガザミに至ってはかつての粗暴さはなりを潜め、大人の余裕振りが見える。
「最初に吸った時には不味すぎて吸えたモンじゃなかったけどね」
「年をとらねば見えない楽しみもあるな」
「アンタが言うと納得しちまうな」
葉巻の香りを 嗜むと、ガザミは
一旦口元から葉巻を離し、右手でそっと挟む。挟んだ葉巻の火を眺め、彼女はふと呟く。
「ディオゴの奴に勧められた時には腐った野菜汁を吸ってるみたいだって言ってよく喧嘩したモンだけどなァ~」
ディオゴの名前にゲオルクの表情が少し悲しみに沈む。
「ディオゴか・・・あやつも居ればなぁ~」
ゲオルクはかつて10年前の亜骨国大戦を共に戦ったディオゴのことを思い出していた。20代前半にして、黒兎人族の軍を率いる大尉だった彼は軍人としては有能であり、亡き妹モニークの復讐のため悲しい情熱を胸に抱き、戦う美青年だった。だが、その美男子な外見を大きく裏切るあまりにも残念な内面性は有名で、下劣さと下品さではあの奴隷商人ボルトリックに並ぶ程だった。酒が入ると更に酷くなり、具体例としては
「育ち盛りのガキにはミルクが必要だろぉ?」と言いながら、酔った勢いでアナサスの口内に射精し、その後「良い搾乳機があるじゃねぇか~」と言いながら、彼をアナルレイプしたこともある。また、つい酔った勢いで「女は肉便器以外の仕事はしなくていいぜぇ~」とぼやき、ガザミと大喧嘩したこと等々叩けばいくらでも埃が出てくる程などだ。だが・・・

「下品な奴だったけど、何か淋しいよなぁ」
「そうだな」
今ここにディオゴが居たら、どんな会話をしていたのだろうかと考えている自分達が居た。
「今ではあやつはコルレオーネファミリーの首領だ・・・何でも奴隷商人のボルトリックと組んで、白兎人族の難民を奴隷として売りさばいて財をなしたらしい。」
「奴らしいっちゃあ奴らしいな」
白兎人族に裏切られた彼らしい復讐を兼ねた成功の仕方にガザミは悲しく微笑んだ。
「あやつは戦いに決着をつけ、戦場を去ったが、俺達と同じで闇の世界から抜け出せずにいるようだ。」
「・・・あいつの中でまだ戦争は終わっちゃあいねぇのかもな」
ゲオルクとガザミは人参葉巻の香りを吸いこむと、宙に煙を吐き、悲し気に空を見つめるのであった。

       

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