Neetel Inside 文芸新都
表紙

黒兎物語
3 ダニィとディオゴ

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モニークは男性恐怖症だ。
今でこそ、男性の姿を見ても恐怖を抱くことはなくなったが、
未だに触れることが出来ない。触れればたちまち身体が痙攣し、
うずくまったまま動けなくなる。

……10歳にも満たない少女をここまで追い込んでしまった原因を話す。

事はアーネスト・インドラ・ブロフェルドという若い白兎人族の軍人が発端だった。
アーネストはダニィの義兄であり、モニークの実兄であるディオゴ・J・コルレオーネが
白兎軍に在籍していた時の上官であった。

直属ではなかったが、いずれにしろ
アーネストは黒兎人族の暮らしているこの国を自治区として管理する
白兎軍の司令官のブロフェルド将軍の息子であったため、
黒兎人族の娘たちを相手に好き放題やっていたのだ。
最悪なことにアーネストに目をつけられ、ストーカァー行為を受けていた
モニークだったが、ダニィの献身的な付き添いと、
ディオゴの暴力的な報復によってアーネストを追い返すことには成功した。
だが、逆恨みしたアーネストはダニィとモニークがハネムーンに向かったその隙を狙い、
2人を襲撃した。ダニィは死ぬ寸前まで殴られ昏倒…

…モニークは昏倒する恋人のダニィの前で一晩中激しく犯されたのだった。


彼女の兄であるディオゴは、怒りに震えてアーネストの睾丸を握りつぶし、
悶絶するアーネストの頭を鷲掴みにし、その口に大量の精子を流し込み、窒息死させた。

妹をレイプし、その夫であり義弟を血祭りにあげた男を許すわけにはいかなかった。
ディオゴが復讐を果たしても、意識を取り戻したモニークの心は元には戻らなかった。
彼女の婚約者であったダニィですらも、男性……オスというせいで身体が完全に拒絶してしまうほどだった。

あの事件以来、ダニィ、モニークとその兄ディオゴの3人の仲睦まじい温かい生活は変わってしまった。
中でもディオゴの豹変振りは凄まじいものがあった。

ディオゴは上官殺しで投獄された。止むに止まれぬ事情があったとはいえ、
上官殺しは大罪である。だが、白兎軍の白兎人族の軍人の中でも
アーネストの畜生ぶりに怒り心頭の者もいた。白兎軍を統括する
セキーネ・ピーターシルヴァンニアンである。彼は国王ピアース3世の甥であり、
黒兎人族との和平を推し進めるピジョン党の党首でもある。白兎軍に
黒兎人族の登用を推し進めたのも彼であった。それが故に、
ディオゴが軍法会議で裁かれる時にセキーネはディオゴを擁護し、
情状酌量の余地があると弁護した。

だが、悲しいことに白兎軍の指揮をとっている現政権の国王ピアース3世は
黒兎人族との徹底的な差別化を推し進めるファルコン党の党首でもあった。
与党の支援なしに白兎軍は立ち行かぬ。セキーネは奥歯を噛み締め、ディオゴに有罪の判決を下したのだった。

だが、理不尽に対する怒りというのは抑え付けることは出来ない。
不服に思った白兎軍に在籍していた黒兎人族の軍人たちが
一斉に蜂起し、銃殺刑の執行される寸前にディオゴを救出。
白兎人族を謳う反政府組織「ラディアータ」のリーダーとして迎え入れられたのだった。

当初は政治的思想を旨としていたラディアータであったが、
やがて復讐の念に支配された畜生集団へと変貌していく。
そして、襲撃の度 荒れ狂ったかのように 白兎人の女や子供たちを見つけては
手当たり次第にレイプし、陵辱していったのだ。
髪の毛を掴み、顔面を殴打し、乳首を噛みちぎり、
胸が引きちぎれんばかりに鷲掴みにされた両胸は赤く腫れ上がる程充血した。
舐め尽くされた首筋は、海水に浸して日光に当てたかのように赤く爛れた。

泣きじゃくれば益々歪んだ笑みを浮かべ、更に熱く焼き焦げた鉄串を
太ももに突き刺し、ゲラゲラと笑う下衆どもが溢れていた。
以前、陵辱したことのある女であれば首筋が爛れているのを見るやいなや、
塩をすり込み、そのまま手足を縛り、放置した。
激痛で痛い痛いと悶え苦しむ女子供の姿を見て、
歪んだ笑みのまま腹が破裂するのではと思う程の大声で爆笑し、
周りの下衆たちと共にその姿を笑っていた。

当初は陰ながら義兄のディオゴを応援していたダニィは怒りに狂い、
ディオゴを激しく罵倒した。

「兄さんは……あの時、辛い想いをしたんじゃなかったのか!
愛する人を侮辱されて 辛かったんじゃないのか……!」

「黙れ……どうして、この憎しみを抱えたまま俺だけが
生きなければならない……!!」

「俺だけ?! 俺だって憎いよ!!
愛した女をこんな目に遭わされて!! だけど、それじゃあ奴等と同じだ!!」

「……おまえに何が分かる。愛する女一人守れない弱虫のくせに……
女のために復讐すら出来ない腰抜けに……何が分かるんだ。」

「待て……今、なんて言ったんだ……?」

暴力を嫌っていたダニィはこの時初めてディオゴに掴みかかった。
目は見開き、完全に殺意に満ちていた。触れてはならない糸を切ってしまったのだ。

「もう一度言ってみろ……なんて言ったんだよ!!兄さん!!」

ダニィは泣きながら、激しく叫んでいた。
兄から聞きたくない言葉を聞いてしまったこの瞬間を信じたくなかった、
だが、ディオゴは悪びれる様子もなく、むしろ激しい憎悪の眼差しで
ダニィを睨み返していた。

「俺はモニークを愛してた!!俺こそがモニークに相応しい男だった!
なのに! おまえが!!
おまえが俺からモニークを奪った……!! 俺は身を引いた!!
おまえに託したはずなのに……おまえが!!」

ディオゴはダニィの手を握りつぶさんばかりにつかみ返していた。

義兄ディオゴがモニークを妹としてではなく、一人の女性として愛していたのは
分かっていた。結婚式当日、ディオゴが涙で顔を濡らしていたのは知っている。
だが、兄として妹の門出を祝ってあげなければならない。
その気持ちがあったからこそ、ディオゴはモニークをダニィに託した。

「………」

ダニィはディオゴを掴んでいた手を離していた。
だが、ディオゴはダニィの手を握ったままだった。
申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
ディオゴは兄としてだけでなく、同じ女を愛した男として
モニークを託してくれた。なのに、それでもダニィはモニークを守ることができなかった。
ディオゴの怒りも重々承知できた。だが……

「それだから……復讐に復讐を重ねても良いって言い訳するのか。
大切な人を奪われたから……周りの誰かを傷つければいいと……?
……愛した女を免罪符にして、周りの誰かに同じ暴力を与えてもいいと……?
それで、モニークが喜ぶとでも……?
あんたこそ……最低の男だ。」

ディオゴは核心をつかれ、ダニィの手を振りほどき離した。




こうして、ダニィの中の尊敬すべき義兄ディオゴは死んだ。
ダニィはその夜、暫く眠りにつき、また眠った。
また目覚めると再び目を閉じ、また眠った。
そして目覚めて目を閉じても、眠れなくなるまでまた眠った。
やがて、眠れなくなることを思い知ると
ディオゴがただの下衆に成り下がり果てたことを思い出して嗚咽し、号泣した。



永遠に尊敬すべき人なんていない。
いつかは幻滅し、別れる時が来るのだ。人生とはそういうものだ。

明るく陽気でヤンチャながらも男としてあるべき手本だった筈の義兄ディオゴと、
天然でほんわかとした安らぎを持った癒しの恋人モニークとの生活は
もう二度と帰っては来ない。

時間は過ぎ去る一方で、あの頃の楽しい思い出を残してはくれない。
時間は残酷な試練を与え、何の救済も用意してはくれない。
ただ無慈悲に乗り越えよと身勝手に告げ、立ち去っていく。
たとえ、どんなに望んでも あの楽しく光り輝いていた
想い出はもう二度と取り戻せはしない。



       

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