3-3~ニート的非日常~
前回、私は永遠に続く平穏は無いと述べた。
が、
当たり前のことだが平穏無事=幸福ではない。
人間は毎日同じことばかりだと飽きてしまう。
だから刺激を求め平凡な日々を変えようと努力する。
だが実際のところ、
全てが全く同じ一日など存在しない。
同じく全てが全く違う一日、
などというものも存在しない。
日常の中には必ず非日常が介入し、
人生にアクシデントというスパイスを付け加えている。
これは例え一般人でもニートでも変わる事は無い。
でもやっぱりニートの一日は大概退屈でつまらないものだ。
そう、ある一部の例外を除いては。
あと、
何のために冒頭の部分を書いてるのか分からないし、
そもそも自分でも何を書いてるのか良く分からない。
なので読み飛ばしてしまっても全く問題はない。
私は今、非常にむしゃくしゃしている。
くしゃみが出そうで出ない。
あの感覚にとても近い。
前回ユリアが現れ、
そしていなくなった日から約三日が経った。
なぜ約なのかと言うと、
ニートの一日は24時間で区切られない場合が多いからだ。
あれ以来、
一度もユリアは私の前に現れていない。
あの出来事は本当に現実のことだったのか。
ただの妄想だったんじゃないかとも思えてくる。
だが、
私にはアレはただの妄想ではないという確信があった。
単に私の狂気の沙汰と言うには、
どうしても解せないことがいくつかあったからだ。
第一に。
エロファイルが無くなっている。
これはもう決定的、且つ確実におかしい。
例え血迷っていてたしても、
自分であの汗と涙の結晶を消すなんてことはあり得ない。
第二に。
妄想が出来ない。
と言っても全く出来なくなったわけではない。
ユリアに関しての妄想だけ、
綺麗サッパリ出来なくなってしまったのだ。
以前は鮮明に、
顔、声、髪の毛からスタイルまで。
それこそ細部まで思い浮かべることが出来たはずなのに。
今は思い浮かべようとすると、
頭に靄がかかった様にぼやけてしまう。
細かく上げるならば他にも疑問点はあるが、
上記二点だけでも十分におかしい。
そして今日も朝早くから何とかユリアを妄想しようとし、
その都度失敗してイライラしている訳だ。
「うーん……出来ない!」
「なぜだ!!」
よく思い出せ。
あの時私は何をしていたか……。
いつもの様に2ちゃんを開いて……。
そう、たまには違う板でも行ってみようと……。
「そうだ!」
「どうしたの?」
「分かったんだよ!」
「何が?」
「エロ画像だよ! 女子高生のエロ画像!」
「そうに違いない! つまりあれは嫉妬パワーだったんだよ!」
「嫉妬の心は親心!
女子高生のエロ画像に興奮した私にユリアが嫉妬して……?」
「あれ?」
後ろを振り返る。
「え?」
見間違いではない。
「私が嫉妬をして?」
ユリアだ。
この三日間というもの、
何度も何度も思い浮かべようとしてその度に、
胡散霧消してしまい終に拝顔することが叶わなかった。
その彼女が今目の前にいる。
「……どうして?」
「何が?」
「どうして、いるの?」
ようやく再会出来たというのに、
私の口からはそんな言葉しか出てこなかった。
「……だって」
すると彼女はにっこり笑って、
「……だってタケちゃんに会いたかったから」
その時、私は確かに聞いた。
自分の心臓が何かに貫かれる音を。
もう死んでもいい。
むしろ殺してくれ。
誰か俺を殺せ俺を殺してくれくぁw背drftgyふじこlp;@:
「ちょ、ちょっとどうしたの!? 大丈夫!?」
「だ、だいじょぶ、大丈夫。 何でもないです!」
「その、発作みたいなもんだから」
「発作!? それ本当に平気なの? 熱とかない?」
彼女が額に手を当ててくる。
そ、そんなところ触られるの母ちゃん以来……!
心臓が一層早く打ち始める。
「やっぱり少し熱ない?」
手を退けると、
今度は顔を近づけようとしてくる。
これはヤバイ。
心臓が臨界点を突破する。
「大丈夫! ほ、本当に平気だから! 落ち着こう! ちょっと落ち着こう!」
咄嗟に身を引いて制止する。
落ち着け、落ち着け自分!
そもそも女性に免疫の無い自分が、
この距離で向かい会うのがまず無謀だ。
「ちょ、ちょっと待って、今落ち着くから」
心配そうに見つめる彼女に背を向け深呼吸をする。
ヒィヒィフー……。
ヒィヒィフー……。
すると段々と気持ちが落ち着いてくる。
さすがラマーズ法、向かうところ敵無しだね!
「ねぇ、ホントのホントに平気?」
いきなり悶え始めたかと思うと突然後ろを向き、
ラマーズ法で呼吸し始める奴など平気どころか変人一歩手前。
いやまず間違いなく変態なのだが私には他に頼るものがない。
「うん、ホントの、ホントに平気だから」
「ふぅ~……」
「大丈夫、もう落ち着いたから」
「そう、ならいいんだけど……無理しないでね?」
無理も何も勝手に興奮し、一人で暴走していただけだ。
余りの情けなさに自分で自分が悲しくなってくる。
「う、うん、はい。無理しないです」
落ち着いたら落ち着いたで上手く喋れない。
やはり私はダメ人間だ。
しかし、このまま終わる訳にはいかない。
私には聞かなければいけないことがあるのだ。
何故ユリアが現れたのか。
そして何故突然消え、今再び現れたのか。
更に妄想が出来なくなってしまったことや、
エロファイルの行方についても聞きたいところだ。
最も、最後二つは非常に聞きづらいわけだが。
「タケちゃん?」
「は、はい!」
難しい顔をしていたせいだろうか、
彼女が心配そうにこちらを窺う。
「大丈夫。大丈夫。何も異常ない、です。」
畜生。
何だその返答は。
日本語覚えたての外国人か私は。
「ふふふ、なにそれ。やっぱちょっとおかしいよ」
そう言ってあははと笑う。
彼女が笑ってくれるなら、
カタコト外国人も捨てたもんじゃないなと思った。
「あ、それで、ちょっとその」
「うん。なぁに?」
「ゆ、その、ユリアさんのことについてなんだけど」
「何でさん付けなの? ふふ、変なの」
そしてまた軽やかに笑う。
確かに妄想の中ではいつも呼び捨てだったはずだ。
しかしいざ目の前に立つと、
とても呼び捨てなんて出来そうにない。
「えっと、それで聞きたいことなんだけど……」
「はい、どうぞタケオさん」
私を茶化しているのか呼び方が変わる。
ただそれだけのことなのに妙にドキドキする。
ダメだ、
とてもまともに会話出来そうにない。
今、この時ほど自分の社交性の無さに怒りを感じたことはない。
そんな私の内心を知ってか知らずか、
彼女はこちらを見つめてにこにこしている。
その眩しすぎる視線に耐えながら、
何とか質問をせねばと必死に声を絞り出す。
「ユリア、さんは、どうして」
「どうして私の前に現れたんでしょうか?」
「…………」
沈黙。
彼女は何かを考える素振りをしたまま黙っている。
何だ、聞いてはいけないことだったんだろうか。
やばい、どうしよう。
あの笑顔が曇ってしまったら……。
焦る。
冷や汗が出てくる。
息が詰まる。
一秒が、
一分にも一時間にも思えるような感覚が私を襲う。
そして一万年と二千年が経とうかという頃、
ようやく彼女が口を開いた。