3-4~続き~
「会いたかったから」
「会ってタケちゃんと、お話したかったから……」
「それじゃ、ダメかな?」
その時、私は確かに聞いた。
本日二度目の、何かが私の心臓を貫く音を。
ああ、やっぱりもう死んでもいい。
いいや、死ぬべきだ。
誰か私を殺しくぁw背drftgyふじこlp;@:」
ちょっと待て。
待て待て。
彼女を残して死ぬわけにはいかない。
こんなどうしようもない男だが、
彼女を泣かせるわけにはいかない!
「僕は死にません! あなたが好きだから!」
「えっ……?」
「えっと、その……ありがとっ……」
とか言って頬染めちゃったりしてんの。
もうね、アホかとバカかと。
また同じ展開かよと。
しかも脈絡も無くいきなり告白か、めでてーな。
「い、いや今のは忘れて!」
「私のこと、好きじゃないの?」
「ち、違う! そうじゃなくて!」
「君のことは、その、可愛いと思うし……」
「も、もちろん! 好きだけど……」
「女性と話すのに慣れてないって言うか、
魅力的過ぎて上手く話せないと言うか……」
顔どころか、
耳まで真っ赤にしながら喚き散らす。
そんな自分は最低に格好悪かったけれど、
その発言は紛れもなく本心だった。
「ふふっ」
彼女が小さく噴き出した。
「…………」
彼女に笑われた。
確かに私は世界中の人間から嘲笑されてもおかしくない。
そんな野郎が何が好きだけどだ、気持ち悪い。
しかも顔真っ赤にしてきょどりながら。
滑稽過ぎる。
ああ死にたい。
死ね! 死んでしまえ!
世界なんて滅びればいい!
「タケちゃんまた同じこと言うんだね」
また……?
「魅力的って言われるのは嬉しいけど……」
「ちゃんとお話出来ないのはちょっと寂しい、かも」
彼女の声でネガティブモードから引き戻される。
しかし、言っている意味が良く分からない。
いや、分かってはいた。
でも何故か認めたくなかった。
「あ、あの、またって言うのは……」
「もう忘れちゃったの? この前言ってくれたのに!」
「え、いや、覚えてるけど……それは……つまり……」
言いたくなかった。
口にしてしまったら認めてしまうことになる。
「つまり?」
「つまり……えっと」
何よりソレを言ってしまうと、
また彼女が自分の前から消えてしまいそうで怖かった。
しかし、
聞きたいという欲求は抑えることは出来ず、
「その……“妄想の中”でってこと……だよね?」
口にしてしまった。
「タケちゃんにとっては妄想かもしれないけど……」
「私にとっては紛れもない現実だよ?」
だが拍子抜けするほど、
彼女はあっさりと答えた。
「そう、なんだ……」
他に答えようがなかった。
何だか肩の力が抜けた。
彼女は自分ではっきりと“妄想”と口にした。
いや、最初から分かりきっていたことだった。
私は何か期待していたんだろうか?
彼女が自分の妄想である以外に、
突然目の前に美少女が現れるなんてことはあり得ない。
しかし心のどこかで願ってはいなかったか。
もしかするとユリアという人物は実在していて、
たまたま私が考えている通りの人物が目の前に現れたと。
あり得るわけが無い。
あり得ないが……。
この力の抜け具合こそが、
私の考えていたことの証明であろう。
何だか気が抜けたと同時に迷いも消えた。
やはり彼女は私の妄想なんだ。
だったら何も怯えることはない。
「えっと、
ユリアは話がしたくて会いに来てくれたんだよね」
「うん」
「だけど元々ユリアは私の妄想で、
現実には存在しないはずだよね?」
「うん、でも……」
「でも私にはいつも目の前のことは現実で、
実際に起こってることなんだよ?」
「あんまり妄想妄想って言われちゃうと……」
「あ、ご、ごめん」
「えーと、その何て言えばいいのかな」
「つまり、あるはずの無い実体が現実にあって、
無いはずのユリアが目の前にいて……」
「あ、ごめん、ちょっと混乱してる」
うーん、何と聞くべきなのか。
普段から頭を使わないため上手く言葉出てこない。
「ちょっといいかな」
「……?」
「手出してみて」
「ん、いいけど。どうしたの?」
彼女が両手を差し出す。
白くて細い、余りにも華奢な手。
一見すると象牙で出来た美術品にも思えてしまう。
私は彼女の手にそっと触れる。
暖かい。
だが明らかに血の通っている、実在する手だ。
「ね、ねぇ、ちょっと恥ずかしい……」
見惚れるあまり、
不躾にも彼女の手を触りまくっていた。
「あ、ごめん!」
慌てて手を離す。
彼女は顔を赤くして下を向いてしまう。
そんな照れてうつむく仕草も、
とても妄想とは思えない。
チクショウ。
妄想なのに反則だ!
悔しい! でも可愛い!
「……手」
「手?」
「き、綺麗な手だね」
「そう? かな……でも、ありがと」
違う! そうじゃないだろドアホ!
いい加減事態を把握しようとしろ!
自分で自分を叱咤して何とか話を進める。
「でも、その、何で突然私の前に?」
「あ、会いたくてってのは分かったんだけど」
「いや、ほらいつもは寝る前とかにぼけーっと、
こうユリアのこと考えて話したりするわけじゃん?」
「でも今は寝てる訳でもないし、
意識してユリアのこと考えてもいないのに……」
「ごめんね……」
突然彼女が謝った。
「え?」
「私、会いに来ない方が良かったかな」
「え、いやいやいやなんでそんな!」
「だって、今タケちゃん凄く困ってる……」
「……私、来ちゃって迷惑だった?」
「え、いやいやいやぜーんぜん!」
「全然そんなことないって!」
「むしろ、嬉しい! すごく嬉しい! ちょーはっぴー!」
「もう気分はハッピーレディゴー!」
「……ホント?」
「本当! 本気! ホンキと書いてマジ! 命懸ける!」
なんだ命懸けるって。
今時厨房でも言わねえよ。
でもまぁそれぐらい必死だった。
そして。
気まずい沈黙……。
「あ、私もう行かないと!」
「え、あ、待って!」
まだ何も聞けていない。
何も分かっていない。
「で、でももう……!」
「ちょ、まっ!」
咄嗟に手を伸ばす。
が、その手は彼女に触れることは無く、
何も無い空間を空振りするに終わった。
私は一人残され。
行き場を無くした手をただ握り締めた。