Neetel Inside 文芸新都
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次の日の店に行ったら、昼時にも関わらず小汚い店内はまたもひと気がなくて、ぽつぽつと黙って席に散らばる幾人かの客の姿が少し寂しげに感じられた。どうやらあまり繁盛はしてないみたいだった。例の彼女が見えなかったからきょろきょろと目で探していたら、接客に来た店主は僕のことを覚えていたみたいで、少しだけ朗らかな雰囲気でこう話しかけられた「あの子なら今日は夕方からなんだ」。僕は下心が見透かされたのが少しばかり恥ずかしくなって、俯き加減に昨日のカウンターへと向かったよ。また適当に注文を終えて淡々と作業を繰り返すように出されたものを食べていると、暇を持て余しているのか、店主が僕に話を振ってくる。「きみ、学生?」「もしかしてそこの大学かい」ってね。そうだと答えたら、少し困ったみたいな顔をして「学校はたのしいか」と聞かれた。僕はあいまいに頷くだけで、その会話は終わったけど、もしかしたら彼は学校というところから離脱してしまった、あの女の子の事を憂いていたのかもしれないな。
昼は一度出直して、夜、確か10時を過ぎたぐらいに僕は晩ご飯を食べに店に向かった。そうしたらあの子がいて、店が閉まる時間まで僕は彼女の観察を続けたよ。もちろんなるべくばれないようにはしたよ。あくまでさりげなくね。
その日の観察ではわかったことが二つあった。ひとつは、彼女は実はけっこう可愛いんだってこと。僕の主観からしてってことで、一般的な美的感覚からするとそうでもないかもしれないけど、飾らない花のような素朴な魅力があると僕には感じられたよ。事実彼女は化粧っ気なんかひとつもなくって、髪の毛も気を使っていないふうだった。そんな中に潜んでいる価値があるとわかったんだ。
もうひとつは、彼女はまったく笑わないってことだ。少なからず入ってくる客たちにも、彼女は昨日僕に見せたような無愛想な表情を貫き通していた。いや、この表現は少し違うね。彼女は笑顔とか、そういうような良い表情ってものができなかったんだろうな。世の中には、死ぬまでにものの一度も笑わない人間なんていないよね、少なくとも僕はそう考えているけど、きっと彼女だって笑った経験はあるだろう。でも何故笑わなくなってしまったのかは、そのときの僕には察するに余りあったよ。

       

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