Neetel Inside 文芸新都
表紙

見開き   最大化      

さてまた次の日だ。僕はその日の昼だけ店に行くことをやめて、この青年に接触を試みることにしたんだ。彼はお昼は学食で済ませるみたいで、彼が座った対岸に僕も陣取った。薄い警戒の目でこちらを窺う彼に軽く挨拶した後、直接先日の店での一件について話しかけた。彼はこちらが見て取れるほどかなり動揺した様子で、ぱっと僕の口を塞いだ。
「すいません、誰かに聞かれたらまずい」周囲を見渡しながら彼は僕にそう告げた。午後二時のカフェテリアは空いていて、少なくとも僕たちの周りには人はいなかった。「あの、あなたは誰で、何が目的で私に話しかけてきたんですか」眼前の青年は早口かつ小声で言う。さてなんと返すか暫し僕は迷った。元交際相手に実は彼女のストーカーだなんて答えるわけにもいかないだろうしね。だから僕は咄嗟の思いつきで言った。僕は君の味方だ、あまりにも君が不憫に思えてならないから解決に来てやった、ってね。いやまぁ自分でもよくわからないことを言ったものだと思うけど、どうやら肝心の彼の心に良い物を与えることができたようで、口びるを塞いでいた手の平が離れていった。
「私と彼女の関係も」
 僕は頷いた。彼は小さい顎に手をやってしばらく考える素振りを見せると、気障に胸元のペンを取り出しメモに数列をしたためるとそれを一枚ちぎって僕の手元に寄越した。「私の電話番号です。今度、一度ゆっくり語らいましょう。お手透きの際にご連絡ください」
 そう言って立ち去る彼に、昨夜の泣き喚く彼の面影は無かった。どうやら僕の考えていた彼と本当の彼は違ったらしい。でもこんなふうに性格の二面性があるやつが、ストーカーの特徴でもあるんだ。

       

表紙
Tweet

Neetsha