Neetel Inside ニートノベル
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おなまえをいれてね!
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「うう〜っ、からだがおもいよ〜っ」
 はいけい?おかあさんへ。わたしはいま、どこかしらないところにいます。
「まったく!あいかわらずきみはぐずだなあっ、なんのためにぼくがきみをえらんだとおもっているのさーっ」
 わたしのことをたすけてくれたのは、はねのはえたみみだけたれた、えねちけーでみたおこじょのちっちゃいばんみたいなようせいさん。しるくはっとをかぶっていていじわるでついついつかまえたくなっちゃいますが、すばしこいからむりです。わたしのせなかにもはねがはえたらおそらをとべたりおいかけっこできたりするからほしいなとおもいます。ここはおそらがきれいで、いきをすうとからだのなかに、めにはみえないからふるなあめだまが、すーっとはいりこんでくるようになって、ちからがわきます。でも、いつまでもはしっているといきがつづかないので、むりはしないようにします。おかあさんもむりはしないでください。あとわたしはいきているのでしんぱいしないでください。
「じゃあ、いっかいやすもっか?しょうじきぼくもきみとあさからしゅぎょうなんかにふけっているからつかれちゃったよ。あさからしゅぎょうとか、にゅあんすがえぬじーっぽいな」
 おこじょさんのいうことはたまによくわかりません「ふける?ふけちゃうの?おこじょさんいまなんさい?あと、にゅあー、にゅあー」
「いやだからふけるっていうのは……いいよ、きにしないでも。それとね?ぼくにはおこじょさんじゃなくてりっぱななまえがあるの。『あれいえんとしゅるーのむ』っていうなまえが」
 まったくおぼえられなかったけどいいました「それがみよじ?すごくながいね、わたしのまえいたところはながいひとでも6もじくらいしかなかったのよ」
「『あれいえんと』までがなまえなのっ。そのしたがみょうじ。『あるきょう』とおよびなさい」おこじょさんはいつもえばりんぼうです。
「あるきょう」
「えへん」おこじょさんはすごくうれしそうでした。「というかきみのなまえこそきいてないよ?きみにもりっぱなのがついてるんでしょう」
「なまえ?なまえっていうのはじぶんいがいのなにかについていうときにひつようなんだよ?わたしはわたし」
「いや、それにのっとればぼくがきみをよぶときにもなまえがひつようでしょ?ないってことはないよ。おしえてよ」
 おかあさん、ほんとうはもういちどおしえてもらうためにきてほしいですが、かえりみちがどこにもみつからないので、つれてくことができません。ごめんなさい。
「なまえかあ……おかあさんはずっとよんでくれてたけどなあ。わからないや」
「そっかあ、むりもないな。でも、ここにいるあいだだけでもかりそめのなまえをつけてあげなくちゃな」
 わたしはいやでした。じぶんのなまえじゃないなまえをつけられるなんて。ちゃんとおかあさんにつけてもらったなまえがあるのに、それのかりかなんかさがして、いつもひどいです。
「いやだよ。じぶんじゃないなまえなんか」またおこじょさんをつかまえてにらみたくなりました。でもやっぱりすばしこくててがとどきません。
「たかがこっちにいるあいだだけだよ、そんないやがることないじゃない」おこじょさんはわからずやです。
「だいたい、おこじょさんのなまえもおぼえづらくてつめたそうでいやなんだから。ろくななまえかんがえられっこないよ」
「わかった。じゃあしんぷるであたたかそうななまえな……『るーしあ』とかは?」
「なにさ、かってに」おもわずひとにむけてふっちゃいけないぐーのてでおどかしました。ぽんというさわったかんじがして、おこじょさんのたいせいがぐらぐらしました。
「いたっ、からだのおおきさかんがえようよっ。しんじゃうよ、あっ、のうしんとうだこれ……うー」
 わるいことをしたからあやまらなきゃ「ごめんね。ぶっちゃって」
「いやっ、いいさこれぐらい。すなおだよなきみは、そこはかわいいよ。るーしあ」
 かわいいっていわれると、おもわずにやけてとまらないです。それまでおこってたのが、ぱーてなって、ほっぺがあつくておかしいです。おまけにおこじょさん、こえばっかしおうじさまみたいだから、ずるいなあ。あっ。
「ねぇっ、おこじょさん」
「ちがうよ、あるきょーだ……なにが?」
「おしっこ!おといれどこ?」
「といれ!?えー?こまったなー、このへんにはそんなのないんだけどー?」
 いいながらおこじょさんはたのしそうでした。ひどいです。もらしたらふくがきたなくなっちゃうのに、それをたのしむみたいです。
「でもといれ!いかなきゃもれちゃうの!はやくしてよ!」
 おこじょさんはいじわるだから、わたしはなにをいうかわかっていました「そうだなあ……あのしげみならだれもみないからはずかしくないでしょ?あっちでしーしーしような」
 やっぱりとおもいました。このいじわるでわからずや。でももれちゃうのはいやなのでいくしかありません。でもあるくのもまえのぽよぽよがきになってもれちゃいそうです。あしをひきずりながらなんとかすすみ、やっとしげみについたときにはからだじゅうにあせがついていました。
「とりあえず、したはぜんぶぬごう。かかったらたいへんだから」
 こんなこと、おうちいがいですることじゃないけど、まだおこじょさんならなれたというかなれなきゃいけないというかだから、いわれてぬぎました。うえはきているのにしたはきていなくてかぜのそのままがくるのですごくきもちわるいかんじです。このときのおこじょさんはほんとうにきらいです。
「あと、うえのふくにひっかかるのもよくないからまえだけたくしあげとこう」
 いわれたとおり、うえのふくをりょうてでたくしあげてぽよぽよのまえでおさえました。このぽよぽよはいつもじゃまです。これをきるにもひっかかってきにくいし、はしりまわるとぶんぶんゆれてあっというまにつかれちゃうのです。さきがふくにさわるのもきもちわるいし、ほんとうにいいことがありません。あとこのたいせいもけっこうきつくてずっとはやってられないです。でも、はやくといれすませなきゃ。
「はっ」
 かからないようにきをつけます。でもひとがきたらどうしようもないのでそれがいちばんしんぱいです。おとがびちゃびちゃうるさくてきかれたくないです。できればおこじょさんにも。
「だいじょうぶ……だれもきてない。へんにちからいれるとからだにどくだからそこはきをつけて、てぃっしゅはわたしてあるよね?おわったらそれでふいてくるんでわたしてくれればいいよ」ぽいすてはいけないからもってかえらなくちゃいけないけど、ほんとうはおこじょさんにそれをわたすのもいやです。わたしのばっちぃのにはさわってほしくないから。
「よし、おわったね。きょうはひとまずまちにかえろうか。あしたもがんばろうね」もうちょっとつづくかとおもったらおわりました。しょうじきわたしはここまでですっかりつかれてしまったのでかえりたかったです。
「おこじょさん」
「ん?なに?」
「ありがとうございました」
「ああ!そうだ、ありがとうございました。またがんばろう」そういわれると、あしたからがんばれるきがします。おこじょさんのまほうみたいです。いつかはわたしもおぼえなくちゃいけないんだ。そうしてみんなをしあわせにしなきゃなんだ。

 まちにかえると、まずはちょうろうさんにほうこくします。ちょうろうさんはおなかがでているのに、せはわたしよりずっとひくいです。でもやさしくてりょうりがうまいからすきです。おこじょさんもこれくらいやさしかったらな。
 ちょうろうさんはいつも、としがいもなくすなおなこでかわいいなとほめてくれます。としとせいかくってそんなにかんけいのあるものでしょうか。わたしはよくわかりません。でもうれしいです。しょうらいいいおよめさんになるともいってくれます。わたしのおうじさまもそうおもってくれるかな。
 りょうりはいつもあじがこくてたべごたえがあります。まだまだせいちょうきだから、たんとおたべ。ちょうろうさんはそういってくれます。ちょうろうさんのせいちょうきはいつだったんだろうとふしぎです。
 ちょうろうさんのいえのだんろはあたたかいです。ごはんたべたのもあって、うとうとしてうごけなくなっちゃいます。
「ちょうろう、あまりへんなこといっちゃだめですからね」
「わかっとるて。しかしほんとうによくできたこじゃないか。わしらでちゃんとささえてやらなくてはだな」
「はあ、まったくきのいいひとだこと……」

 おかあさん。わたしはまだ、おかあさんのかおも、こえも、やさしさも、いつかのおおげんかも、わたしの『こうこういちねん』ででていったおとうさんのかおもおぼえています。ただ『こうこういちねん』がいったいなんのことかわからないのがこわいです。

 おかあさん、わたしはおうちにかえれますか。ぽすともゆうびんきょくもないこのまちにいると、なにもわかりません。


 でも、わたしもおかあさんもむりはしないできをつけてすごせば、きっとだいじょうぶです。

       

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