Neetel Inside ニートノベル
表紙

セックスチェンジオナニー
本編

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「……っあ。ひぁう……!」
この馬鹿女! 変な声を上げるのはやめろ! 俺が体の支配権を持っていればこんなことにはならなかったのに! 
朝。快速急行は二十分間ノンストップだ。まだ出発したばかりで停車まではしばらくかかる。途中で腹痛など起こした時には世界を呪うこともしばしば。だから大概の事には耐えることができる。
 ……だがなぁ、変態じじい! 俺の尻の穴をほじくるのはいい加減にやめろ! 
 さっきから後ろに陣取っている禿げた親父が俺の尻を、太ももを弄っている。すぐにでも、その汚い手を振り払ってやりたいが、それができない。なぜなら、現在この身体は馬鹿女――和泉ありすが支配しているからだ。出来るのは、この馬鹿女に怒鳴りつけることだけだ。
(この馬鹿! さっさと振りほどけ! お前これ以上変なことをされてみろ! ぜってえ殺す)
「……む……りだよ。怖くて声が出ない」
(ああ! くそったれが! いいよ! こんなところでそんな女らしさ出さなくても! 大体今のお前の身体は男だろうが! 俺の! 男の身体を持ってなんで男に痴漢されてんだよ!) 
(……そ、それは中野君が、可愛いからですよ……)
「――ゃん……!」
 ありすが不快な喘ぎ声を出す。
 何でこんなことになったんだ……。俺は死にたくなるくらいの辱めを受けながら、こんな変てこな身体になってしまった経緯を思い返していた。





「桐緒! 次は来週の月曜日だからな。遅刻するなよ。スタジオ代もったいないんだから」
九月中旬。その日は至って、いつもと変わらぬ日常だった。大学の授業が終わった後、いつものようにバンドメンバーと待ち合わせて、スタジオで練習した。俺――中野桐緒はその日も約束の時間より十分ほど遅れて待ち合わせ場所に到着し、バンドメンバーからの顰蹙をかった。
「はいはい。解ってるって」
ギターを担いでこちらを睨む、木下正人にひらひらと手を振って言った。正人はがっしりとした筋肉質の身体でルックスが良い。よく女に間違えられる俺とは正反対のイケメンだ。
「嘘よ! 桐緒は何度言っても遅刻やめないでしょうが。今度おごってもらうわよ」
 横からベースを担いだ、紅杏子が俺に向かって吼える。杏子は紅を基調とした、少し派手目のパンクファッションをしている。
「ちっ。お前食べることばっかり考えてんじゃねえよ。太るぞ」
「……くっ。桐緒、あんたいつか殺すわよ」
 杏子は本当に憎しみの篭った目で俺を睨むとローキックを飛ばしてきた。こいつは、食べるとすぐ太るらしい。
 俺たちは『スカーミッシャー』という名前で、ついこの間結成したばかりのロックバンドだ。バンド名の由来は、俺と正人がはまっている、とあるオンラインゲームから。日本訳では『散兵』。要は射手や、銃兵などの遠隔歩兵を指す。俺と正人はこの兵種を使うのが好きだったからこの名前にした。杏子は名前が決まってから入ったのだが、スカーミッシャーという響きは爽やかで嫌いじゃないと言って納得していた。因みに通称はスカミ。
 バンドメンバーはギターの正人とベースの杏子。それからドラムの俺の三人だった。
「おい、杏子。歌の練習ちゃんとしてんのか」
 帰り道、杏子の家まで三人で歩きながら帰っていた。杏子の家はスタジオの近くで、俺と正人は原チャリだったから、いつも正人と二人、押しながら徒歩で送っていたのだ。
「私やらないって言ってるでしょ」
杏子はげんなりとした顔で俺を見た。
「あんたがやりなさいよ。桐緒」
「やらねえよ。バーカ。正人に決定だな」
「俺は桐緒が歌えばいいと思うがな。その顔なら男にもてるぞ」
「……てめえ。殺されたいようだな」
「はいはい。もういいよ。そのコント。正人は桐緒ちゃんが好きなんでしょ。はいはい」
「は、殺すぞ。杏子」
「ヒャッハー! 桐緒なら抱ける!」
 そんなふざけたやり取りをしながらも、杏子の家に到着して、俺たちは散会した。
ここまでは至って、いつも通りの日常だったのだ。何がどう間違ったのか――その帰り道に事故は起きた。
 五十キロ程のスピードで原付きを走らせている時だった。道路の真ん中へ突然猫が飛び出してきたのだ。俺は声にならない悲鳴を上げながら、ハンドルを切って避けようとした。そして、身体だけが慣性によって放り出され――強かにコンクリートの地面に頭を打ち付けた。視界が真っ暗になったかと思うと猛烈に気分が悪くなって、痛みが体中に広がって。ああ、ヘルメット付けていれば良かったと一瞬だけ後悔して、俺は気を失った。




 ヘルメットくらいは本当に被っておくべきだった。そうしたら、まだ骨折ぐらいで済んだかもしれなかった。
 この時おれは瀕死の怪我を負っていたらしい。しかし、俺は死ななかった。
「う……ん」
俺はしばらくして目を覚ました。嘘のように身体の痛みが引いていた。というか怪我が全て消えている――?
そして、俺は恐ろしい事実に気付いた。あれがない。俺の股間にぶら下がっていた、大切なあれが! 
「うお!」
 ない。ない。ない。ない! パンツの中に手を突っ込んでもそこには何もなかった。更に自分の声が少し高くなっていることに気付き、胸の膨らみに気付いた。でも大した大きさではないな……
 その時、声が聞こえた。
(あの、大丈夫ですか?)
「誰だ!?」
 俺は辺りを見回したが、暗い道路があるだけでそこには誰もいない。
(名前ですか? 私、和泉ありすって言います)
 これは、どこから聞こえてくるのか。頭の中から聞こえてくるような感覚。やはりあれが無くなるほどの事故を起こしたのだ。頭がどうかしてしまったのかもしれない。クールになれ。俺。そして夢なら醒めろ。
(あの、本当に大丈夫ですか)
「あ? 大丈夫なわけがないだろ! あそこは取れるし、胸もこんなに腫れてるんだぞ」
 まだ童貞だったのに。俺のあそこは一度も使われることなく取れてしまったようだ。事故のショックと併せて俺は混乱していた。
(女性の身体? もしかしたら、私がとりついたせいかも……)
「は? とりついた?」
(うん。あなたが今にも死にそうだったから、助けるためにとりついたんです。で、私が女だからとりつかれたあなたも女の子になったのかなって。あはは)
とりついた? 俺は何が何だか解らなくなって眩暈がした。ではやはりこの声は頭の中で聞こえているのか。
「・・・・・・お前、一体なんなんだよ」
(幽霊ですよ! 何を今更)
 こんなふざけた事があるものか! 俺はあそこを失った絶望的な気分と今起きている訳の解らない現象に目の前が真っ暗になった。

       

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