Neetel Inside 文芸新都
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思いつき短編臭
卒業アルバム

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 毎日が無駄に過ぎていく。
 もう色々限界に来ていた。

 最初は小さな失敗だったと思う。

 だけどそれは波紋の様に広がって、
 あっという間に止めようの無い濁流になった。

 仕事のトラブル、周囲との軋轢、もう耐えられない。


 誰も私なんか必要としてない。

 生きている意味なんかない。


 何度も手首をかっ切ってやろうと思った。
 
 でも出来なくて。

 そのたび、こんな事を考える自分が嫌になった。

 果てしない自己嫌悪。

 死ぬ事も生きる事も中途半端。




 そしてある日ついに仕事を休んだ。

 ズル休みだった。




 何も考えたくなくて部屋の整理を始めた。

 余計な事を考えないよう一心不乱に掃除していると、
 ある物が目に止まった。


 中学校の卒業アルバム。


 何に惹かれたのか分からないが、
 気付けばページをめくっていた。


 一枚めくるたび懐かしい顔が写っている。


 親しかったあいつ。

 憎たらしかったあいつ。

 そして好きだったあの子。


 様々な思い出が走馬灯の様に駆け巡る。


 修学旅行は夜通し語りあって、
 次の日に怒られた。

 体育祭はバトンを落として呆れられた。 

  
 楽しかったことだけじゃない。

 きっと辛い思い出の方が多いかもしれない。

 それでも。

 それでも今はそんな事すら愛おしい。

 
 胸の奥が熱くなる。

 いつの間にか涙が頬を濡らしていた。

 乱暴に拭って次のページをめくる。



 戻りたい、還りたい、あの頃に。

 涙が止め処なく溢れて前が見えない。

 あの頃に比べ今の自分はなんだ。

 毎日に疲れ、怯え、逃げている。

 あの頃の私は何処へ消えてしまったのか。



 また、ページをめくる。



 無くしてしまったあの頃を、

 もう戻らないあの頃を取り戻すかのようにページをめくる。



 一枚めくるたびに熱い何かが込み上げてくる。


 堪え切れなくなり嗚咽する。

 嗚咽を止めようとはしなかった。


 今の自分など、
 こんな弱りきった自分など、
 涙と、嗚咽と一緒に流し出してしまえばいい。


 ページをめくるたび、

 嗚咽が漏れるたび、

 まるで時がさかのぼり、

 どんどんあの頃の自分に近づいて行くような気がしていた。


 


 そして、ついに最後のページ。



 最早私は完全に自分を取り戻していた。

 若かったあの頃を。

 夢を見て、情熱に燃えさかっていたあの気持ちを。


 そして、興奮にも似た緊張を覚えつつ最後の一枚をめくる。

 そこには皆からの、
 寄せ書きとおぼしきものが書いてあった。












 死ね!!

 二度と顔見せんな!

 糞!

 う ん こ w w w w w w w w 

 きもいんだよ!!!!



 あぁ、なんだ。


 私はあの頃と何も、変わっていなかった。


 今も、
 昔も、
 必要とされていないんじゃないか。


 私は梱包用のカッターを手にすると、
 ためらうことなく一気に引いた。

       

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