Neetel Inside ニートノベル
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ミシュガルド~ボルトリックの飼育日記
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 「豚小屋」と呼ばれる地下室の扉を開けると異常なほど濃厚な空気がむあっと顔面を撫で付けてきた。
 そこに踏み入れる豚は始め、その空気のカーテンをくぐるときに一瞬意識を持っていかれる。
 太陽のもとに生まれぬくぬく自由に育ってきた豚はあらかじめこの天気も時間もからぬ、ホコリと糞尿と血生臭さが染み付いた石と鉄の部屋に住まされることを ここの管理者ボルトリックから宣言されていた。
 もちろん抵抗する豚は後をたたない。
 そんな豚さんの為に「特別室」という地下室と隣接した部屋が存在する。
 ただでさえいるだけで気分が悪くなる地下室の牢獄だが、その部屋は比べ物にならないほど禍々しいオーラを放っており、扉の開け閉めの際に死臭が地下全体に立ち込めるほどであった。
 選ばれた豚はボルトリック自らが「特別室」に引きずっていく。
 特別室に入るときのボルトリックは何故かいつも満面の笑顔であった。
 ただし目は笑っていない。
 扉を閉めると中の様子は誰にもわからないが、その部屋を使用しているときは常に扉についている小窓から響く絶叫が豚小屋全体を震撼させていた。

「やめろおおおおお」「痛い!痛い!」「いやあああ家に帰してええええ」「お願いします!この子だけは助けてください!」「ああああああっあたしの・・・あたしの腕があああ」「頼む!助けてくれ!財宝のありかを教えるから!」「あなた!ごめんなさい!こんなのに・・・!」「もう殺して!」


 魂の絶叫、絶望の命乞い、希望は激しい金属音にかき消される。
 絶叫が鳴り止むと今度は甘いささやき声が聞こえてくる。
 鞭のあとに飴である。
 他の豚に聞かれないように小声で何かを耳打ちすると今度はすすり泣きが聞こえてくる。
 おそらく豚が自害などしないようにここからでられる方法を話しているのだろう。
 もしくは「お前の家族も道連れにする」などの脅しか。
 どちらにせよ再び特別室から姿を現した豚はひどい有様で、すっかり生きる気力をそがれたかのようだった。
 そして必ず身体の一部を損失していた。
 そんな豚の肩を抱きながらボトルリックは「うんうん、明日もがんばろうねぇ~」などまた目の笑っていない笑顔で励ますのであった。
 この特別部屋は豚の再教育の場であるが、他の豚の抗うエネルギーを奪っていくことにも確実に効果を発揮していた。
 抵抗すれば地獄よりひどい目にあう。
 暗くて寒い牢獄に鎖でつながれ鉄錆びた牢獄の中にいると己が本当の豚になったかのようだ。
 この絶望の部屋の管理者、奴隷商人であるボトルリックにとって、豚小屋にいる者は人間であってもエルフであってもオークであってもウサギ人間であっても生きていれば等しく豚なのである。
 夢も希望も埃にまみれたこの豚小屋での品質管理は徹底的に行われる。
 絶叫と血しぶきつきで。
 そして今日もこの豚小屋に新しい豚が足を踏み入れることとなる。


 「ウェルカ~ム」
 ボトルリックが乱暴に手綱を手繰ると首輪につながれた金髪の女が床に四つんばいになる形で倒れこんだ。
 舞い上がる埃と牢獄に漂う異臭を吸い込み、女はしばらく咳き込んだ。
 金髪から飛び出た細長い耳がピクピク痙攣する。
 ボトルリックが派手なアラブ風の衣装を身にまとっているに大して女は裸であった。
 おまけに首輪に繋がれており、屈辱的な犬の散歩状態である。
 女が顔を上げてボトルリックを睨みつける。
 怒りの表情であったがこの世のものとは思えないほど美しかった。
 「無礼者!」
 女が吼えた。
 「私を誰だと思っての狼藉か!誇り高きエルフ一族のもっとも崇高といわれる・・・」
 「あ~はいはいはいはい」
 女エルフが高々と名乗りをあげようとするとボトルリックはすかさずそれをかぶせた。
 ボトルリックは奴隷商人の中でもトップ中のトップに君臨している。
 彼の抱えている奴隷は数百になるといわれ、その多くは彼の品質管理が必要なモノばかりである為、女エルフ一人の長ったらしい素性を聞いている暇など一秒たりともないのである。
 それでも女エルフは名乗りを上げ続ける。
 しかし彼女は全裸に首輪姿。
 どれだけ能書き垂らそうがその姿はどこからどうみても痴女である。
 それ以前にどんな身分であれボトルリックの手に落ちたら最後、奴隷の声は豚の鳴き声と同様であり彼に理解されることはない。
 首輪に繋がれた女エルフを見てボトルリックは思った。
 何故女エルフというやつはどいつもこいつも同じことを言うんだ?
 自分が常に一番偉いとでも思っているのか。
 そんなんだからてめえの村は滅びたんだよ。
 ふと女が100パーセントの怒りと屈辱の眼差しでボルトリックを見つめているのに気がついた。
 それに120パーセントの笑顔で返した。
 彼が笑うと総金歯がむきだしになり、その輝きがかえって彼の下品さを際立たせていることに本人は気づいていない。
 「貴様に一つ聞きたいことがある・・・」
 女が低い声で言った。
 「なんでしょう?」
 (メス豚さん)とボトルリックは心の中で付け足した。
 「村の生き残りは・・・どれくらいいる。」
 「ん?」
 「私一人だけを捕らえているわけではないのだろう」
 ボトルリックは静かに女エルフから視線をそらし、しばらく間を置くと
 「村を襲撃したのはオークの集団だとか・・・」
 女エルフの顔がこわばった。
 「三日前・・・丁度、村の警備を担う騎士団の健康診断の日・・・オークの集団が村に攻めてきたときには鎧をまとう暇もなく、無残にも家は焼かれ、財宝は奪われ、抵抗すれば殺され、一方的な蹂躙であったと・・・」
 抑揚のない声でボルトリックが言った。。
 女エルフはわなわなと身体を震わせた。
 何を隠そう自分こそそのエルフの騎士団の一員であった。
 身体検査で少しでも体重を減らそうと下着姿でいたところを襲撃され、一匹のオークに捕まり下着を剥ぎ取られてしまった。
 そのとき、同僚のエルフ騎士が身代わりとなり間一髪で逃がしてくれたのだ。
 武器も無ければ服も無い、村はあちらこちらで悲鳴と火の手が轟いている。
 やむなく森へと逃げるしかなかった。
 一度態勢を整えてから村に戻ろうとしたが、今度は奴隷狩りが行く手を阻んだ。
 守らねばならぬ故郷から逃げ出して、今は裸で首輪をつけられている。
 自分への怒りと情けなさで胃が鼻から流れ出しそうだった。
 女エルフはこらえきれずに涙を流し始めた。
 見るとボトルリックも肩を震わせているではないか。
 女エルフはそれを自分と同じように泣いているものと思った。
 くるりとボトルリックが女エルフに向き直る。
 いなや間近に顔を接近させてきた。
 その顔が強烈に歪んでいる。
 虫歯が痛い、というような顔だった。
 そのとき「ぶっ!!」という音とともに唇から短く空気が噴出された。
 ついでに大粒の唾が一直線に女エルフの唇付近に付着した。
 「ぶわははははははっっ」
 ボルトリックは爆発したように唾を撒き散らしながら笑った。
 「けっ!けっ!健康診断の日にトロール襲撃って!パンツ一丁で体重計に順番に並んでいる最中にいきなりトロールが来たのかああ~!傑作すぎるうう!どぅほっほっほほほお!」
 笑うたびにふくよかすぎる身体がブルンブルンと振動した。
 そしてとてつもなく息が臭い。
 この臭さは空気を汚染し、花を枯れさせ、酸性雨を降らせ、遺伝子の形成を狂わせ、世界を終わらせてしまうだろう。
 女エルフはボトルリックが突然爆笑し始めたことに怒りを感じる暇も無く、その天然の毒ガス口臭を直に受けてしまい、あまりの臭さに胃の中のものをぶちまけた。
 「あっ!大丈夫?」
 突然嘔吐した女エルフを見て、ボルトリックは心配そうに背中をさすった。
 自分の生物兵器波の口臭のせいだとは気がついていないようだった。
 ボルトリックが女エルフの体調を心配しているのは、彼女が自分の奴隷であり、商品だからである。
 お客様に健康で安全な商品を提供したい。
 その為に病気持ちの早期発見、駆除を怠ってはいけない。
 奴隷の品質を常に第一に考えることで信頼と実績を得てきたのだ。
 人間扱いはしていないが。
 石の床に黄色の胃液が広がる。
 この豚小屋では失禁や嘔吐をして床や壁を汚すとその本人に舐めて掃除をさせるのだが、ボルトリックはなんとその女エルフの胃液を素手でかき集め始めた。
 「もったいねぇなぁ。エルフ女のゲロは肌の美容にいいんだ」
 そう言うとどこからか取り出した小瓶に手ですくった胃液を流しいれる。
 異様な光景に女エルフは硬直した。
 「び・・・美容にいいだと・・・?」
 信じられないという顔でボルトリックの行動を見つめる。
 「いや本当にあるかどうかはわからん。まぁどの美容液も似たようなもんだ。」
 と言うなりさりげなく女の長い髪で汚れた手をぬぐった。
 「な・・・なんなんだ・・・なんなんだ貴様はぁ!」
 女エルフがヒステリックに叫んだ。
 「奴隷商人じゃい!」
 ボルトリックが負けずと叫び返す。
 一瞬、女エルフが硬直した。
 脳が現実を受け入れなかったのだろう。
 騎士団から裸の奴隷となった今の自分の現実を。
 次の瞬間、「オヴエエッ」というくぐもった鳴き声とともに女エルフが再び嘔吐した。
 「あららららら」
 本当に病気を持っているかもしれない、とボルトリックは女の顔を覗き込んだ。
 その瞬間女エルフの身体からすさまじい殺気が放出された。
 ボルトリックが十分な距離に近づくのを見計らって、女エルフはバッと勢いよく顔をあげると口内から何かをボルトリックの顔面、眼球に向かって噴出した。
 それは鋭い針であった。
 いざどなったときに、最初から口内に忍ばせていたのである。
 今ほどの嘔吐はボルトリックに一矢を報いるための演技であった。
 「奴隷になどならない!」
 その誇り高きエルフの戦士としてのプライドが彼女の闘志を再び燃え上がらせた。
 この針は見事ボルトリックの眼球に突き刺さり、相手の注意が反れた瞬間、後ろのドアから階段を駆け上がり、地上にでて村に帰るのだ。
 それが女エルフの算段だった。
 しかし最後の希望を託した針はボトルリックの顔を反れて弧を描いて冷たい石畳に落下していった。
 なにがおこったのか。
 ボルトリックの右手が女エルフの豊かな乳房をわしづかみにしていた。
 針が噴出される瞬間、乳房を揉まれて一瞬女エルフがビクンと身体を反応させてしまう。
 眼球をねらって打ったはずがその一瞬で狙いが大きく反れてしまったのである。
 実のところ、ボルトリックは女エルフの殺気に勘付いて乳房を握ったわけではない。
 そこにたわわな乳房があったから握ったまでのことである。
 ボルトリックは自分の意図しないうちにこの強運で何度も窮を逃れてきていた。
 しかし女エルフからしたら自分が命を懸けて放った希望をもいとも簡単に握りつぶしたこの男に底知れぬ恐怖を感じずにはいられなかった。
 「あらら~今何をしたのかな~」
 ニタリとボルトリックが笑う。
 目が狂気を帯び始めた。
 「あ・・・あ・・・」
 わずかな望みも失った。
 「何をしようとしたのかな?お前のご主人さまに?」
 ボルトリックは女エルフの金髪を握りこむと思い切り乱暴に引っ張りあげた。
 「ひいいっっ!」
 「立て」
 髪を引っ張り乱暴に立たせた。
 「来い」
 そのままズンズン地下の奥に進んで行く。
 女エルフが抵抗する。
 しかし闘志はすっかり消えうせ、ずるずると引きずられて行くしかなかった。
 強く髪を握られ、頭皮まで抜けそうだ。
 脳髄が恐怖で凍り付いていく。
 女エルフの美しい顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃに崩壊していた。
 奥へ進むほど闇が濃くなっていく。
 戻らなければもう二度と地上の光を見ることはできないだろう。
 「特別室だ」
 ボルトリックがその扉を開けると血生臭い空気が通路いっぱい押し寄せてきた。
 「入れ」
 顔は笑っているが口調はせかせかしたものだった。
 早く楽しみたいという意識が感じられた。
 強く髪を引かれ女エルフが部屋の中に入ってすぐにドアが激しく閉まる音が響いた。
 女エルフが顔を上げ、部屋全体を目の当たりにする。
 「・・・・!?」
 そのすさまじい光景に女エルフは声も上げることができなかった。
 血生臭さに本当に吐き気を催してきた。
 再び髪の毛を掴まれた。
 「お前のせいでこのエルフはこんなひどい死に方をした。」
 ボルトリックは女エルフの髪の毛を掴んでその地獄の光景を間近で見せようとした。
 「エルフ女は一人一人面倒くさいから連帯責任にしている。一人騒げば一人こうする。」
 女エルフはあまりの凄惨な光景に耳が聞こえなくなっているようだがボルトリックは続けた。
 「お前が最初に騒がなければ、これはこんな目にあわなかった。お前のせいでコレは悲惨な死に方をした。」
 「・・・」
 女エルフはただその場に立ち尽くしていた。
 「安心しろ、お前にはこの拷問マシーンは使わない。」
 ボルトリックが柔和に微笑む。
 「最近気がついたんだが、人間機械に頼ってばかりだといつしか何の力もなくなってしまう・・・」
 女エルフは恐怖のあまり失禁していることに気づいていない。
 「最近この機械は使いすぎて調子がわるいんだよ。血と肉がいろんなところに詰まってね。だから今日は初心に帰ってワシ自身のチンポでお前を開発しようと思ってな」
 「・・・え?・・・え?」
 女エルフは我に帰ったようにボルトリックを振り返る。
 唇が毒ガスを撒きながら迫ってくる。
 この瞬間女エルフは自分の未来がこの男によって黒く塗りつぶされたことを悟った。
 しばらくすると一人の豚が暗く寒い牢獄の中で哀れな鳴き声をあげ始めた。
 それよりも大きくボルトリックの高笑いが地下牢に響き渡るのであった。

       

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Neetsha