Neetel Inside ニートノベル
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 エルフや亜人はそこまで悪人とは思えない。しかしこれは命令だ。軍人は命令に従わなくてはならない。メゼツはアーミーキャンプの堀の内側、精霊樹の門の前にテレポートした。跳ね橋は上がっている。橋を吊る2本の鎖の、片方の滑車を回し1本の鎖を緩ませる。もう一方の滑車を回せば橋が降りるはずだ。
「そこで、何をしている」
 今、一番会いたくない相手だった。
「あんたこそ何してんだクルトガさんよ~」
「エルフが精霊樹にいておかしいか? 門番だよ。君は何をしに戻ってきたんだ」
「忘れ物をした、なんて言い訳はど~だい」
 クルトガはもう剣を抜いている。居合の一撃を、ショートテレポートでかわす。しかしクルトガはメゼツがテレポートを使うことを知っている。メゼツの視線を読み、テレポート先に合わせて、すでに剣先を向けている。これはかわしきれずメゼツは胴に受け、滑車の前まで跳ね飛ばされた。相手の得物が軽い片手剣でなければ、鎧を着ていなければやられていただろう。
 クルトガは魔法兵を呼び集め、自分の剣に武器強化の魔法をかけさせた。すでにかなりのアルフヘイム兵が起き始めている。このままでは奇襲は失敗しかねない。
 クルトガの斬撃が迫る。鉄をも絶つほどに強化された刃が。


 眼鏡に口ひげの砲兵隊長、アレッポは双眼鏡をのぞきながらじれていた。
「くそ、もう4時半を過ぎたぞ。メゼツは何をしている」
 双眼鏡の先に動きがあった。メゼツがランダムテレポートでかわし、クルトガの斬撃は空振りして、後ろにあった跳ね橋の鎖を切り裂いたのだ。支えを失った橋が落ち、堀に橋が架かる。
「架橋された。突撃準備射撃開始!! 使い道のなかった鹵獲品も使うぞ」
 森に伏せていた攻城砲が一斉に火を噴く。精霊樹の門と橋の延長線上に配置されていた魔導砲が、亜人の捕虜の魔力を吸い取って起動する。
「弾道が直線的すぎる魔導砲はこんなことにしか使えんからな。仰角をうんと下げて、水平撃ち、撃てーーー!!! 」
 橋に殺到するアルフヘイム兵を魔法の光が薙ぎ払い、精霊樹の門を突き破る。


 メゼツは作戦計画書を読んで知っていたため、クルトガを押し倒して魔導砲の光から逃れた。
「なぜ、助ける」
「俺が聞きて~よ。バッキャロ~」


「連隊、突撃準備位置へ。付け剣! 突撃用意!! 」
 傷のある右目を髑髏の面で隠し、義手の右手の調子を確かめながら、軍幹部の制服の男が叫ぶ。歩兵連隊長ゲル・グリップ大佐が先頭に立ち、兵士たちの士気は最高潮に達していた。
「突撃ーーー!!! 」
 喚声を上げながら機甲兵たちは上半身のないエルフ兵の死体を踏み越えていく。


 町に砲弾の雨が降り注ぎ、大地を耕していく。アレッポはこん棒を振りながら砲兵陣地を精力的に督戦していた。山積みされた砲弾を見つけて、眉間から左頬にかけて古傷のある若い砲術士官を怒鳴りつける。
「ミスター・レッテルン、あれほど砲弾を一ヶ所に集めるなと言っただろう。引火したらどうする」
「エルフ共を虐殺するのにこのほうが効率がいいんですよ」
「しかも、これブドウ弾じゃないか」
 ブドウ弾はその名と形状が示す通り、打ち出すと空中で子弾が飛散し、広範囲にばらまかれる散弾の一種である。クラスター爆弾の砲弾バージョンと言ったほうが理解できる人もいるかもしれない。
 ニーテリア世界の牽引砲も銃火器も、まだ腔線ライフリングと駐退機が発明されておらず命中精度が著しく低い。その結果、甲皇国は砲弾のほうを工夫した。現地改造した丙武元大佐の散弾ショットシェルの撃てる拳銃”マッシャー”やブドウ弾がそれである。命中の低さをカバーするため、より広範囲に飛ぶように進化したMAP兵器だ。当然のことながら大量破壊兵器として、軍縮条約で使用禁止となっている。
「まさか条約違反だなんて言わないですよね」
「そうじゃない。動かない建造物を狙うのだから貫通弾で十分だと言っているんだ」
「えー、こっちのほうがエルフ虐殺できるのに」
 サンリ・レッテルンは甘いマスクをゆがめる。
「君は砲手よりも歩兵突撃が向いているようだ。許可するから行ってきなさい」
 持て余したアレッポはサンリを歩兵連隊に厄介払いすることにした。

       

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