Neetel Inside ニートノベル
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ミシュガルドを救う22の方法
4章 空位の皇帝

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 酒場には武勇伝を吐く大男の声や、「たまにはケモとモフモフするか」と今夜のお相手を物色する声がひしめいている。すでに閉店間際にもかかわらず、誰も帰ろうとはしない。
 うんちはメゼツが別行動している間に、ヤーと連絡を取り合っていた。ヤーから渡された電子妖精ピクシーはとても使い込まれているらしく、学習機能によりヤーそっくりの話し方だ。
「僕は本当は歴史家になりたかったんだけどね」
 ヤーは引責辞任した父に代わり大社長となったが、歴史家への道を諦めきれない。尊敬する考古学者アルステーデ・アズールのように貿易商を引退した後に、歴史学を志そうと決めている。うんちからの質問、今後のSHWの方針についても歴史を絡めて話した。
 SHWの領土は狭く、東方大陸は耕地に適さない急峻な地形である。貿易立国しか選択肢がなかったと言ってよい。甲皇国は痩せた土地ながら、南部に耕地があったという中途半端さが不幸だった。豊かな耕地への渇望が、アルフヘイムへ向くのも仕方がなかったのかもしれない。戦争ともなれば兵糧として搾取され、民衆はますます飢えた。甲皇国には食料が絶対的に必要だったが、敵国のアルフヘイムから直接買うことはできなかった。
 かたやアルフヘイムも問題を抱えていた。精霊樹の力は年々弱まり、かつて乳と蜜の流れる地と謳われた豊かな大陸は見る影もない。アルフヘイムには化学肥料が絶対的に必要だったが、敵国の甲皇国から直接買うことはできなかった。
 すなわち甲皇国もアルフヘイムもSHWを通してしか貿易できないこの状況こそが、SHWが世界の貿易取引高の半分のシェアを占めるからくりなのである。SHWは関税かけ放題、物資を右から左に動かすだけで莫大な利益を生み出していた。
「つまり、SHWの方針は現状維持。現状維持は年金についで僕の好きな言葉だしね。甲皇国とアルフヘイムには仲良くけんかしててもらうのが一番いいのさ。逆に言えば、甲皇国とアルフヘイムが手を結び、直接貿易しだすのが最悪のシナリオだね」
「甲皇国とアルフヘイムの和解なんてありえない」
 うんちは録音されたメッセージということも忘れ、つい反論する。ヤーはうんちの反論を見越していたのか、メッセージの中に回答を用意していた。
「信じられないかもしれないけど、戦前の二国は今ほど険悪じゃなかったんだよ。そもそも何が原因で戦争になったかなんて、誰も憶えていないじゃないか。戦争の原因を知っていそうなのは、甲皇国においては皇帝クノッヘンやボロヴィズ将軍。エルフは見た目から年齢が推し量りにくいけど、ミハイル4世やダート・スタンといった人たちは知っていそうだね。SHWではストライア兄弟が世代的にギリギリかな」

       

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