Neetel Inside ニートノベル
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 ゲルはホロヴィズの秘書官シュエンと仕事以外の会話を交わすことがなかった。だからこの日も唯一の接点である喫茶店にシュエンを呼んだ。シュエンはゲルの渡した意見書に目を通している。ゲルは黙々とイチゴパフェをほおばっている。
 読み終わったシュエンは黙ってデコデコとクリームで飾り付けられたパンケーキを崩す。
 幼少期、親がいない寂しさを紛らわすように、二人の孤児は甘いものを欲した。肉親の情に飢えた二人は、今でも甘いものを求めるのである。
 パンケーキを食べ終えたシュエンは簡潔に指示した。
「こういうゴミをいちいち持ってこないでよ。僕も暇じゃないんで」
「しかし、亜人への報復としても良い案だと思うが。高貴な人間が奴隷だったという極秘情報をつかんでいるんだ」
 シュエンは高貴、奴隷、極秘というキーワードからまったく別の事案を連想した。それは丙家の中でも限られた人間しか知りえない真相。
 丙家が次期皇帝に押すユリウスは、皇后エレオノーラの息子である。甲皇国首都マンシュタイン空襲のおり火竜レドフィンを撃退して名を上げ、民衆からの人気も高い。その最も皇帝に近い男ユリウスのアキレスけんは出生の秘密にあった。
 ユリウスは奴隷を飼っていた。今では傭兵騎士まで成り上がっていて、名をアウグストという。アウグストの父はハイランド王ゲオルク、母はエレオノーラだと言うのである。これだけでも大きなスキャンダルだが、皇帝はユリウスもまたゲオルクの子ではないかと疑っていた。
 シュエンは情報が広がるのを恐れ、ゲルに釘を刺した。
「ゲル大佐にとって、ホロヴィズ将軍は育ての親だったと聞きます。ホロヴィズ将軍はこの意見書の抹消を望むでしょう。忠義を尽くしてください」
「命令に忠実であることは忠義の中でも、下の下。上官が間違ったとき、命をとしてお諫めすることこそ真の忠義」
 シュエンはホロヴィズに至急連絡をとった。「ゲル・グリップ大佐に翻意あり」と。

       

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