Neetel Inside ニートノベル
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ミシュガルドを救う22の方法
5章 獣神帝暗殺

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 エピスモーはハーピーである。ハーピーの中でもとりわけ大きいロック鳥種だが、まだ幼鳥なので子供ほどの背丈しかない。
 尾羽ふりふり森を歩いている。飛んだほうが速いが、飛ぶとお腹が減ってしまう。この前も荷物の中身をつまみ食いして、ちづるに怒られたばかりだった。首からつりさげた皇国駐屯所司令部宛の小包にぼたぼたとよだれが落ちる。
「まったく、馬鹿な部下を持つと苦労しますね。この獣神帝ニコラウス直々に不始末の尻拭いとは」
 忽然と現れた白と黒の髪の犬耳の男がいまいましげにつぶやいている。黒髪で隠れてよく見えないが、右目の上にもう一つの目のような傷。南国の極楽鳥を思わせるカラフルな羽を広げて、エピスモーは元気にあいさつする。
「こんちわ~」
 ニコラウスはエピスモーの目をじっと睨み、第3の目を見開く。エピスモーの目はぐるぐると回り、口からだらだらとよだれを垂れた。
「さあ、その荷物をこちらに渡しなさい」
 頭はクラクラ、エピスモーの足が勝手にニコラウスに近づいていく。
「だめだもん。こづつみはおきゃくさんにわたさないと、ちづるちゃんかなしむもん」
 エピスモーは自由が利かない翼を必死でばたつかせ、飛ぼうと試みる。
「おかしいですね。下等な生物ほど、この催眠術にかかるはずですが」
「えぴ、がんばるもん。そしたら、みんながほめてくれるもん。ぜったいこづつみおとどけするんだ」
 エピスモーの体が腰丈ほど浮き上がり、低空飛行で飛び立った。
「逃しませんよ」
 ニコラウスは面倒になって、エピスモーに拳を振り上げる。かばうように巨大な影が空から舞い降りた。エピスモーは振り返らず、東を指して羽ばたく。後ろからロック鳥の鳴き声がする。エピスモーはやさしい母親の声を聴いた気がした。

       

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