Neetel Inside ニートノベル
表紙

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「おお勇者よ死んでしまうとは情けない」
 目覚めていきなり罵倒される。
「は? 死んでねーし。何だよ勇者って」
 ざっくばらんに話すメゼツに甲皇国の老皇帝クノッヘンも苦い顔をする。
「そういえばメゼツは死亡受勲だから知らんのだったな。お前には素体用のエルフ二匹を生け捕りにした功で皇国勇者勲章を与えた」
 少しずつ記憶が蘇ってくる。亜骨戦争の最終局面、メゼツはアルフヘイムの腐森の魔女、ニフィル・ルル・ニフィーに単身で挑みかかった。二合、三合と剣を打ち合ったが、最後は禁断魔法によって体を砕かれた。思い出すだけで無いはずの体に鈍い痛みが走る。
「あ、俺、死んでた」
「お前は今、魂だけのかすかな存在だ。しかしお前の体は蒸発しているため、魂を収めるべき器として魔物の体を用意した。わしの言いたいことはわかるな。お前は魔物の振りをしてミシュガルドに潜入し、獣神帝の勢力や亜人どもを内部から瓦解せしめるのだ。やってくれるな」

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┃    ┃
┃>はい ┃
┃    ┃
┃ いいえ ┃
┃    ┃
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 どうせ断ったところで押し問答の無限ループになるのは分りきっている。勇者に拒否権などない。
 甲皇国は一大軍事国家だが、経済の規模は小さく再軍備には時間がかかる。だからアルフヘイムと軍縮条約を結ぶ一方で内部工作によってミシュガルドを実効支配する必要があった。
 しかしミシュガルドには土着の勢力が存在する。獣神帝は値千金の獣神将を率い、強力な魔法を使って魔物たちを糾合した。だが、そこに付け入る隙がある。
 魔物たちには多くの種があり、その中には犬猿の仲の種族や食物連鎖においての天敵にあたる種族もいる。けして一枚岩では無いのだ。これは多種の亜人の貴族共和制国家であるアルフヘイムにも当てはまる。
「支度金として宝箱を持っていくがよい。」
 宝箱の中には皇国勇者勲章と総額1億VIP相当の金貨が入っていた。平均的な冒険者資産の千倍以上だ。この金があれば最初の武器屋でヒノキの棒や竹やりを買うこともないだろう。
「では、復活の儀式をはじめる。鉄のアルトゥールよ、ここへ。」
 赤いローブを身にまとった、仮面の男が王の脇から一歩前に歩み出る。魔方陣を書きながら、呪文の詠唱が始まった。
 気が遠くなる。意識の外からアルトゥールの詠唱が響く。魂の移し変えが始まった。次に目をさましたとき、メゼツは魔物になっていることだろう。

       

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