Neetel Inside ニートノベル
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 黒い手製のマントの少年が迷子の少年に手を差し伸べている。兎面の亜人が全身にゴムをまとった男となにやら話し込んでいる。あいかわらず大交易所は国際色豊かで、メゼツは面食らう。
 自分とコンビを組む刺客と顔合わせをするため、待ち合わせ場所であるコックスズキの店の前に来ていた。待ち時間に情報収集も欠かさない。話し込んでいる亜人たちの会話に聞き耳をたてる。
「ゴム人さん、この前依頼した極薄コンドームは完成しましたか」
 ゴム人とはミシュガルドの先住民である職人人の一人である。職人人は一人一種の民族で、それぞれが一つの物に偏執的に執着する特性を持っている。兎面の亜人は近くに少年がいるのもはばからず、ゴム人からコンドームを受け取っていた。
「セキーネ王子。アナタノ提供シテクレタ、エロマンガ産ゴム。最高水準ノ材料カラ、完全避妊ノ全身コンドーム、デキタ。コレ、ノビルスーツ、コンドム。」
 誇らしげなゴム人をよそに、兎の渋い顔がノビルスーツの厚さを確かめている。コンドームというよりも全身タイツに近いそれは股間の部分がでっぱり、かろうじてコンドームの面影を残していた。セキーネ王子は自分の股間とノビルスーツのでっぱり部分を見比べてため息をつく。
「こういうのじゃないんですよね。私は別にラバーフェチというわけじゃないし。そもそもこのでっぱりじゃ小さすぎて、私の白い悪魔は収まりきれませんよ」
 兎人族のセキーネ王子は好色で有名であるが、まさか本物ではないだろう。身分の高い人間には影武者が何人もいるものだ。食い入るように見ていたのがバレたのか、それとも彼こそが待ち合わせの刺客なのか、セキーネ王子がこちらに近づいてきた。
「もったいないからノビルスーツはそこの3倍早そうな赤い彗星チェリーボーイにあげよう」
「ど、ど、ど、童貞ちゃうわ。俺だってこんなもん使わん」
 セキーネ王子は優しい顔でポンポンと尻を叩き、ノビルスーツをメゼツに羽織らせた。
「モテないからって、悲観してはいけませんよ。君にもきっと使う時がくるさ」
「そういう意味じゃね~」
 メゼツにノビルスーツを押し付け、セキーネ王子は満足して去っていった。セキーネ王子と入れ替わりに、本来の待ち合わせ相手がようやく現れる。
 右目の周りの目立つメイクのわりに、今日は野暮ったい冒険者のような格好をしている。知らぬものから見ればシーフのように見えるこの男を、甲家王室の末席に列するとメゼツは知っている。
「まさか刺客って、あんたか。カールさんよ~」
「俺は立会人だよ。紹介しよう、ジョニー」
 いかつい髑髏のヘルメットで顔を隠す、貧しい身なりの男をカールは引き合わせた。それなりに筋肉質だがあばらが浮き出ている。ひきしまってた体というよりは、生活苦で痩せこけているといったほうが良い。平民の出なのだろう。
「ひぃゃっはぁぁぁああああ!!! 金のためだったら何でもやるぜ。おんぼろジョニーとは俺様のことだ」
「まあ、細かい打ち合わせは店で食いながらやろう。ここのスーパー卵かけご飯は絶品なんだ」
 カールはそれだけが楽しみと言わんばかりに、メゼツの背を押した。


 ジョニーはジロジロと店内をくまなく観察し、ため息一つ。地球外生命体のようなみてくれの店主だったが、確かに卵かけご飯は絶品だった。打ち合わせはつつがなく終わり、食後のまったりとした空気をメゼツが引き締める。
「こいつが料理人に扮して、包丁で獣神帝を刺殺するんだよな。本当に大丈夫なんだろうな」
「ジョニーはウチで専属コックをやっていたから、料理の腕は保証する」
「そっちじゃね~よ」
 メゼツはカールに何度も念を押した。

       

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