Neetel Inside ニートノベル
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 アルドバラン城の厨房に通されたメゼツとジョニーはさっそく作業に取り掛かった。ジョニーは下ごしらえをして、今は料理人に徹している。包丁の持ち込みは一本しか許されず、手持ち無沙汰のメゼツはジョニーに話しかける。
「おたくさ~、なんでそんなに金が欲しいわけ。命を懸けるほどのもんか、金なんて」
「金に不自由したことのない坊ちゃんがたはそうかもしれやせんね。貧しき者も身の丈に合った小さな夢を持ってるんですよ」
 逆差別されたと感じたメゼツは意地になって聞く。
「どんな夢だよ」
「あっしには生き別れた妹がおりましてね。その妹を探し、いっしょに小さくてもいいから自分たちの店を持ちたいんです」
「そんな骸骨メットで接客したら、客が逃げちまうんじゃね~か♪ 」
 茶化されて気を悪くしたのか、ジョニーはメゼツを厨房から追い出した。
「あんただけ楽はさせませんよ。地下の氷室からメインデッシュになりそうな食材を見繕ってきてください」
 当初ジョニーの実力に疑問も持ったが、今はうまくやれる気がしていた。何より妹思いなところがメゼツは気に入った。


 地下へと続く階段を降り氷室を探していると、メゼツは扉の前に立つシャルロットと従者のルーを見つけた。ルーは妖精と千手孕せんじゅはらみという魔物のハーフで、金髪碧眼。本来手のひらサイズの妖精に似ず、人間の少女ほどの見た目である。主好みの黒い服で、シャルロットの妹と偽っても通じそうだ。背からのびる触手で扉をなぞって調査している。
「お前ら、こんなところで何してんの」
「フフッ、アルドバラン城は真の主たる私をずっと待っていたのだ。この開かずの扉が今開かれようとしている」
 メゼツは扉を押したり引いたりしてみたがびくともしない。
「開かね~じゃん。冒険ごっこもたいがいにしろよな」
 ルーは氷室の場所を教えて、なぜかメゼツをシャルロットから引き離した。


 氷室の扉は張り紙がしてあった。読んでみると獣神帝ニコラウスが獣神将に書置きしたようだ。
『氷室にスッキリもやしサラダが入っています。みんなで食べてネ』
 メゼツは獣神帝が巷で言われるほど悪い奴じゃなさそうだと感じた。そして氷室の中にあったものを見て、その思いはさらに強くなった。
 イーノの亡骸を見つけたからだ。氷室の中に安置されていたせいか、イーノの姿は生前と変わらない。メゼツはあきらめ悪く脈をとる。やはり脈拍はなかったが、そのときイーノの手がかすかに動いた気がした。
 イーノの体を動かしていたのはメゼツの手だった。しかしウンチダスの体は腕がない。正確にはウンチダスの体から飛び出したメゼツの霊体が、イーノの体を動かしていた。
 メゼツは試みにウンチダスの体を脱ぎ捨て、イーノの体の中にすっぽりと収まってみた。
「おっ、自分の体のように動かせるぞ」
 口を動かし声を出してみる。イーノの声だ。細い指を一本一本動かし、握ったり閉じたり調子を確かめる。久々のまともな体にテンションが上がり、無意味にくるりと一回転。メゼツは召喚魔法も使えるか試してみた。
「え~と、確か古き神がど~のこ~ので、来たれ」
 かなり適当に詠唱したが、マン・ボウが召喚された。メインデッシュの食材としてちょうどよさそうだ。メゼツはもとのウンチダスの体に戻るのが惜しくなった。イーノが生きていると思って、仲間たちは喜んでくれるはずだ。この氷室に安置されていたままだったら、いつかは食材にされてしまうかも知れない。メゼツは理由をこねて、自分の行いを正当化しようとした。
 メゼツはウンチダスの体から板金甲冑フルプレートアーマーを外す。イーノの体は小柄だからパーツを組み直せば装備できるはずだ。
「これも念のため中に着とくか。使うことがあるかもしれないしな」
 わざとらしくメゼツは言い訳する。頭が入らず兜を捨て、半甲冑ハーフプレートになってしまった鎧を着る。


 メゼツがイーノの姿のまま食材を持って帰って来たので、ジョニーは警戒した。
「あんたの手助けするように託されたんだ」
 本当のことを言っても信じてもらえないと思い、メゼツは苦しい言い訳をする。ジョニーはよりにもよってエルフに後事を託したことを不快に思ったが、もはやメゼツを探している時間もない。いざとなれば自分一人でニコラウスを討ち果たすまでだ。
 ジョニーはメゼツから受け取ったマン・ボウを蒸してから、まんべんなく火が通るように金串を刺して焼いた。皮に焼き色がつき、焼きたての匂いが食をそそる。
 仕上げに柳葉包丁をマン・ボウの腹に差し込んで隠した。配膳台に完成した料理を載せ、ジョニーとメゼツが運ぶ。

       

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