Neetel Inside ニートノベル
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 二式竜戦車が滑走路に着陸し、タラップからヤーヒムが降りる。ゲルにはすでに連絡がいっているはずだが、飛行場には出迎えもない。
 ゲルはヤーヒムに含むところがあるのだろう。70年間も戦争していた敵国の人間が亡命してすぐに信頼されるはずもない。同じ軍幹部とはいえ、先任は向こうだ。こちらから出向くのが礼儀だろう。


「ゲル大佐、ヤーヒムが来ましたよ」
 上司の感情は部下にうつるものらしい。階級の低い下士官すら影では呼び捨てである。
「ちっ、来たか。通せ」
 連隊司令部大天幕にてゲルにヤーヒムが報告する。
「クラウスが!?魔法のたぐいじゃないのか」
「そのような魔法は聞いたことがない。あれは間違いなくクラウス・サンティ本人だった」
 ゲルが最初に考えたことは恐怖でも驚きでもなく、疑惑だった。密かにヤーヒムの報告を録音した電子妖精ピクシーをトクサ邸に届くよう設定して放つ。
 しかし返信を待っているヒマはなかった。戦況が劇的に変化したからだ。
「大佐、敵に動きがありました。敵左翼歩兵部隊がゆっくりと後退し、中央戦車部隊残党と右翼騎兵部隊が別動隊を形成し北側に長く伸び始めました」
「鶴が翼を広げるように我が軍を包み込むこの形は、半包囲!!」
「それはあり得ない。兵数が少ないほうが多いほうを包囲するなんて」
 ヤーヒムは兵法の基本を述べて、ゲルをいさめようとしたが無駄だった。
「あのクラウスならばそれくらいのことはやるだろう。ヤーヒム、戦車部隊を率いて敵を逆包囲しろ」

       

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