Neetel Inside ニートノベル
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 はるかに離れた甲皇国までの距離を電子妖精ピクシーは一瞬で飛翔する。
 郊外にひっそりと建つトクサ邸の門前で電子妖精ピクシーは止まり、猫用の通り道を通って秘密の地下室にやって来た。
 モニター画面が敷き詰められた異様な部屋で、神官風の格好をした緑の髪の男を前に電子妖精ピクシーは行儀よく敬礼して録音したデータを再生した。
 軍属であるのに軍服を着ていないのは、特殊技能を持った幹部の特徴である。トクサの特殊技能は読心術だった。声の調子から心を読むだとか、顔色から心を推し量るだとか、そんなチャチなものではない。トクサの正体は丙家監視部隊のさとりあやかしである。だから、録音の音声だけでヤーヒムが嘘を言っていないことはすぐわかった。
 しかしゲル大佐も疑り深い人だ。トクサはヤーヒムが亡命し、初めてクノッヘン皇帝の前に謁見した日のことを思い出した。トクサが心を読み、ヤーヒムの裏切りに虚偽なしと証言した日。それでもゲルは軍への入隊を反対した。するとヤーヒムは皇帝の前に一歩進み出ると、両の耳を自ら削ぎ落したのだ。エルフの誇りをいとも簡単に。
 トクサは返信を電子妖精ピクシーに託して放つともう別のことを考えていた。ビャクグンが大里に行っているが大丈夫だろうか。大里の風景が映る画面を注視した。

       

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