「少しでも時間をかせがなきゃ」
ケーゴによる宝剣を使ったグミ撃ちは、実を言えば一定の効果を上げていた。ウルフバードの魔法は無限ではない。また濃縮された水球を作るのには時間がかかる。だからウルフバードはあらかじめ濃縮しておいた水球を水路の中に隠しておいたのだ。爆発する水としない水を区別することができるのは自分だけな以上、最高の隠し場所だった。が、その数は少なくなってきている。宝剣の炎をかわすための無駄撃ちは控えたい。持久戦は不利と悟ったウルフバードは勝負を決めるため、両手に水球を握る。
疲弊していたのはケーゴもまた同じだった。次の攻撃を凌げるだろうか。
ウルフバードは水球を投げる体制に入ったが、途中で手を止めた。
「そんな馬鹿な! 本当に戻って来た!」
「オレは仲間を見捨てない。リーダーだからな」
仲間のもとに駆けつけたフリオはそのままの勢いで間合いを詰める。ウルフバードはたまらずボーイイーターを呼び戻すが、リッターの連れてきたシャーロットがそれを阻む。
「リッター。良かった、無事で」
「シャーロットさん!ケンカばかりしてたのに、助けてくれるの」
「まあ、あんなに頭下げられちゃね」
「それは言わない約束だろ!」
シャーロットを見たボーイイーターはひるみ、苦しみ始めた。
「あ……ああ……う……」
「む。あなたも人をオークみたいに怖がって! 許さないんだから!」
シャーロットは両刃斧を柄についたおもりでてこにして振り回す。ボーイイーターは発狂しながら水路を泳いで逃げていった。
「フッ……おとといおいで」
「まだだ、まだ負けてねえ」
やぶれかぶれになったウルフバードが水球をばらまく。激しい爆風で、近づくことができない。
「母乳が飲みたい……誰か母乳を下さい」
ホワイト・ハットの真っすぐな青い瞳がシャーロットを見据える。
「こんな時に何を」
「こんな時だからこそです。我は旧き吸血鬼。赤き血と白き乳あらば、あの程度の敵蹴散らしてくれる。血を渡すか母乳を渡すか、選択を汝に託す」
ホワイト・ハットの口調が途中で大人びたものに変わる。どうやら冗談を言っているわけではなさそうだ。
「母乳なんて出ないし、血でもいいのよね」
「ああ、それなら大丈夫ですよ。僕のおっぱいマッサージを受ければ」
すっかりもとの口調に戻ったホワイト・ハットは物陰にシャーロットを連れ込む。
フリオは右足に巻いた鞘から短剣を抜く。ウルフバードが投げつけた水球を殴りつけるように短剣で切り裂いた。水滴が飛び散り、ぱちぱちと弾けて傷口を開く。濃縮した水球を拡散させることで威力を殺している。考えてやっているわけではない。仲間を守りたいという正義の心がそうさせた。
「どうやら、あのウルフバードって人はあまり接近戦は強くないらしい。近接戦闘ができないからあの魚人を護衛につけたのよ、きっと」
「フリオ君でも倒せるってこと? 」
ついにウルフバードに肉薄したフリオはでたらめに殴りつけた。
シャルロットの予想通りウルフバードは至近距離の戦闘であっけなく敗れ去った。
「ちょっと、戦闘終わってるじゃないの」
服装を整えながらシャーロットが熱い息を吐く。
「じゃあ、このおっぱいはもったいないから、モローにあげましょう」
ホワイト・ハットは水筒のふたにしぼりたてのミルクを注ぐ。モローは恐る恐るふたを舐める。やがて鼻を突っ込んで飲み始めた。
「すごい。モローが飲んでる」
「おっぱいは人類の宝です」
「でも、どこにミルクなんてあったの?」
ケーゴの素朴な疑問にシャーロットは耳まで赤くなった。
子供たちがモローに夢中になっている間に、ウルフバードは地を這って逃げようとしていた。
「あんたなんだろ、ガイシの爆弾テロって」
メゼツがウルフバードの首を押さえつける。
「てめえ生きていたのか」
「あいにく、この体は魔法に耐性があるようでね」
ウルフバードは観念した。メゼツの中に同じものを感じたからだ。汚い仕事でも進んで請け負う強さを。
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