ときに運命というものは、最もそれを望まない者に人々の望んでやまないものを与えるらしい。
不本意ながら皇帝の座を射止めたカールは八省卿を留任させ、更迭されたホロヴィズの後任は当分空席とするむねを布告した。
甲皇国本土では新皇帝即位のニュースでもちきりで、毎日がお祭り騒ぎだ。
カールの父フォルカーが隠れ住んでいる山荘にも、呼んでもいないのに祝いの客が引きも切らない。表向きは。
無下にもできず、フォルカーは客間に通しもてなす。
やわらかなソファーに埋まるように腰掛けた小男は祝辞をのべると、いやらしい笑みを浮かべながら本心を垂れ流した。
「まったくうらやましい。皇帝の父親になる気分とはどんなものなんですかな」
眼鏡の奥のフォルカーの目は、疲れと焦りで混濁している。
この国は老いて朽ちつつある。
カールが帰国すれば、今目の前にいる小男のような得体の知れぬやからが近づいてくるかも知れない。
老骨にたかるネズミのように。
眉間に深いしわを寄せ、フォルカーは小男を追い出した。
もう家族を失いたくない。
皇位継承レースに進んで身を投じたカールの母は暗殺されている。
妻を失ったフォルカーはもともと内向的だった性格も災いし、病的なまでの人嫌いになった。
山荘に引きこもり、嵐が通り過ぎるのを待った。カールが帰ってこないことを祈りながら。