Neetel Inside ニートノベル
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 メゼツはヤーから商談を持ちかけられ、小銃2万5000丁、小銃弾420万発、中古汽船(排水量700トン)を買い入れた。これでセレブハートの海軍はどうにか後備一個師団相当の戦力を保有するに至った。
 新海軍の初仕事はテレネス湖の探索の予定だ。丙武を含む陸戦隊5000名が海軍支援のため駐屯地を出発した。


「さすがね。テレネス遺跡に人職人人が潜伏しているという情報をリークして、丙武を駐屯所から引き離した。鬼のいぬ間に何を始めるのかしら?」
 駐屯所の客間を改装して設けられた皇帝執務室に、乙家の次代を担う令嬢が訪ねてきたのは丙武出発の翌日だった。
 皇帝カールは相変わらずのシーフのような軽装で、八部卿から上がってくる書類を決済している。
 カールは入り口に赴いてククイの車いすを押す。
「あら? 皇帝に車夫のような仕事をさせてしまって、痛み入りますわ」
 ククイがいたずらっぽく笑った。
 カールは侍従たちに目配せし、席を外させる。華美な装飾の皇帝執務室に、控えめな礼装のククイと皇帝らしからぬ格好のカールだけの二人きりとなった。
 カールはククイの問いに答える。
「皇帝は君臨すれども統治せず。皇帝の権限の一部を甲皇国本国の閣僚に移譲してしまおうと思うんだ」
「なぜかしら? あなたなら本国を平和なまま発展させることができるのに」
 ククイが責める。
「買いかぶりすぎだよ。本国の遠隔統治なんて不可能だ」
「じゃあ、本国に凱旋すればいいじゃない」
「それはもっと無理だよ。本国で孤立することになる」
 カールは笑いながら言うが、その笑いはどこか乾いていた。
「ミシュガルドから人材を引き抜いていけば……」
 ククイはもっと自分を頼るようにと言いたかったが言葉にならなかった。
「そうなるとミシュガルド派と本国の留守番組とが派閥抗争する未来しか見えないな」
 ユリウスにはアウグストを筆頭に傭兵騎士が付き従っている。エントヴァイエンにはライオネルを隊長とする親衛隊がいる。ミゲルにはハナバたち丙家監視部隊が。カールには背景となる組織が何もなかった。
 だからこそ丙武はカールを傀儡にすることができたと言って良い。
「本国の経営はユリウスに任せよう。当面はエントヴァイエンとミゲルも加えた三頭体制が望ましい」
 ククイは黙して語らず。
 カールにとって、幼馴染のククイとの付き合いは長い。何が言いたいのか分かってしまう。
 丙家の支持するユリウスに権力を移譲することを恐れているのだと。
「再び戦争になるわ。無垢な庶民は飢え、従順な兵士は死ぬ。孤児と寡婦だけを残して」
「何も変わりはしないさ。お飾りの皇帝が名実ともにお飾りになるだけで」

       

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