Neetel Inside ニートノベル
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ミシュガルドを救う22の方法
15章 デモンズコア

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 男の決意に水を差してはいけない。メゼツは何も言わずダートを見送り、一行は甲皇国の勢力圏内の森から脱出した。


 もうしばらくは森に行きたくはない。予定を立てず大交易所でのんびりとすごそう。今は暖かい部屋の中でぐっすりと安眠したい。
 メゼツは貧民街で間借りしている部屋の固いベッドに潜り込んだまま、うつらうつらしながら考えている。もうお天道様はとおに真上を過ぎたのだろう。外が騒がしい。
 部屋の戸を叩く音ですっかり目が覚め、ベッドからはい出たメゼツは眠気まなこのまま戸を開ける。と、戸口にスズカが立っていた。
「これはどういうことなの!?」
 起き抜けに新聞紙を投げつけられ、身に覚えのないことをまくしたてられる。
 まだ頭が覚醒してないらしく、スズカの言葉が耳に残らない。
 頭は働いていないが体は自動的に日々の日課をこなしていく。ラプソディからもらったプロテインをミルクに溶かし、よく混ぜる。ダマを荒く潰して、粉っぽいミルクをぐいっと一息に飲むつもりだ。ウンチダスの体は手がないのでストローで吸うが、シェイクよりもドロドロなそれはなかなかストローを上がってこない。これも肺活量を上げる訓練だという気持ちで顔を真っ赤にしてしゃにむに吸った。けしてうまいものではないが、これが筋肉に変わる。
 ベッドの柵に足をかけ、腹筋を始める。起き上がるたびに左右にひねり、それで一回。100回やるつもりが90回しかできなかった。ウンチダスの体になってみて、初めて肉体強化に頼り切っていたことを痛感する。
 腕がないので拳立て伏せと懸垂ができず、かわりにスクワットをやった。
 足の指でタオルをつかみ、器用に体の汗を拭く。
 シャツを着ると肩がないせいでずり落ちてきて、左胸があらわになる。
 顔を背けたスズカがメゼツの顔に別の新聞を投げつけた。
「何枚持ってんだよ。俺新聞なんざ読まねーぞ」
「いいから! ざっとでも目を通してみなさい!!」
「なになに、クラーケン新聞? テロリストの正体はメゼツぅ!? どういうことだ!!」
「私が聞いてるのよ!」


 市街地におけるテロ行為が近年増加傾向にある。今年に入ってすでに12件のテロ事件が起こり、被害総額は7500億Vip、死傷者ののべ人数は438人に及ぶ。事態を重く見たSHW経営陣は三大国共同の調査を提案したが、アルフヘイムはテロを甲皇国の意図によるものと拒絶。三大国の足並みがそろわず、テロ対策は各国単独で行われることとなった。
 というのもテロリストが犯行声明で自分はメゼツ少尉であると名乗ったことが原因とされている。甲皇国はメゼツ大尉(甲皇国は名誉の戦死による二階級特進を強調していた)は大戦中の禁断魔法により死亡していると説明し、少尉の関与を否定した。
 テロの目撃情報によると、確かにメゼツ少尉に似ていたという話が多数報告されている。


「甲皇国広報はメゼツは死亡していると嘘をついているけど、あなたは生きている」
「なんだよ、疑ってんのか?」
「疑ってはないけど、他の仲間に誤解を与えるわ。ドッペルゲンガーの仕業とか少しは弁明したらどうなの」
「ドッペルゲンガーってあの危険度シャルフリヒターの魔物のことか。確か触った奴にそっくりに化けるって言う、ああああああああああああぁぁぁぁぁぁ」
 ようやく頭が働きはじめたメゼツは唐突に叫んだ。
「ちょっと。いきなり大声出さないでよ。何?」
「あいつのせいだ。黒騎士の手下にクラウスに変装してた奴がいたろ」
「そっか。あのコラウドとかいう人があなたに変装して悪事を働いているわけね」
「あんにゃろー。スズカー!次にテロの標的になりそうな場所は分かるか」
 スズカはミシュガルドの地図をテーブルに広げた。ミシュガルド大陸南海岸の西のほうに甲皇国軍駐屯所、その北東側に川をはさんで甲皇国入植地ガイシ、北北西側にはリブボーン鉱山がある。南海岸の東のほうに大交易所、さらに東を流れる銀の河を北に遡上するとテレネス湖。テレネス湖西部の森深くにアルフヘイムアーミーキャンプがある。地図にはそれ以外の場所は記されていない。記述があるのはほんの南の端だけで、北側の大半は未開ということである。
 スズカは新聞に目を通しながら、甲皇国駐屯所とガイシの間に×印を書きこむ。これは13日前にエルカイダによって引き起こされたミシュガルド鉄道鉄橋爆破テロの起きた場所だ。駐屯所に二つ、ガイシに三つ、大交易所に五つの×が付いた。スズカはアルフヘイムアーミーキャンプの上に×を書こうとして手を止める。
「ここはいいか。アーミーキャンプテロは甲皇国軍の特殊工作員のしわざだし。とするとガイシのオツベルグ邸テロとカール邸テロも除外ね。ウルフバードのしわざだから。結論、大交易所がエルカイダテロの大半の標的になってるわね」
 続いて大交易所のパンフレットを取り出した。店の名前まで細かく書き込まれた地図のページを開く。
 大交易所駅、合同調査報告所前駅、その間の区間の線路、大交易所外港馬車ターミナル、地下闘技場。五つのバツ印を書き入れて、スズカは結論を述べた。
「やはり不特定多数の人間が集まる所、公共の場所、特にミシュ鉄がらみがよく狙われる傾向にあるようね。ただしミシュ鉄も近年警備が厳しくなっているから、次狙うなら、例えば大交易所駅西口公園とか。合同調査報告所そのものを狙ってくる可能性もあるわね。あとは今日野外コンサートがあるミシュガルド広場。この三か所に搾って待ち伏せしたら。3人で手分けして、エルカイダが現れたら他の仲間を呼ぶってことで」
「3人? ちょっと待て。俺にスズカにサンリにもうひとりいただろ。あのエルフの」
「ラビットならもうあなたについていけないと言っていたわ。まあ、あの娘も私も今まで成り行きであなたに従っていただけだし、しょうがないわね」

       

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