メゼツの戴冠を喝采する声が
皇帝がころころ変わり、変わるたびにどんどん血統が怪しくなっていった。皇帝の権威などとうに地に落ちていただろう。ほとんどの人間が心から祝福してはおらず、嫉妬か利用対象としてしか見られていない。
そんな陰謀渦巻く戴冠式において、一番歓喜してくれたのは父ホロヴィズだった。
「皇帝メゼツよ、陛下ならば丙家の悲願を必ず叶えてくれると信じておったぞ。ワシも老骨に鞭打って復職する所存じゃ」
「あんたにはとっておきの役職がある。あんたにしかできねえ仕事だ」
「なんでも申し付けられよ。宰相でも最高司令官でも陛下の下で存分に活躍しますぞ」
「あんたはメルタの父親をやってくれ」
「なんじゃと!? このバカ息子がああああああああ!!」
ホロヴィズはメゼツの栄達を心から喜んでいたが、要職に返り咲くあては外れたようだ。
実の父を冷遇したのを見て、丙家でなくても皇帝の
メゼツは救いを求めるようにうんちの姿を探した。
「うんち、何遠慮してやがる! そんな後ろにいないでこっちに来い」
皇帝となったが、メゼツはまだ覚えていてくれた。それをうれしく思ううんちはメゼツの御前にはせ参じようしたが、メゼツを取り巻く貴族の子弟たちによって邪魔された。
「陛下、このような臭い魔物とは今後一切関わらぬほうがよろしいかと」
「貴様のような奴にうってつけの仕事がある。さあ、来い」
うんちはメゼツから引き離され、憲兵に連行されていく。
メゼツは遠い人になってしまった。もう共に戦ったり、酒場でくだをまいたり、いっしょに冒険した日々は帰って来ない。うんちは失ったものの大きさからメゼツの皇帝即位を実感した。