Neetel Inside ニートノベル
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ミシュガルドを救う22の方法
最終章 世界を救う22の方法

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 メゼツは言うことにした。
「大交易所の大手門の前に同じ挨拶を繰り返すエルフ娘がいただろ」
「あああああ、そっか、よう子さん!」
「失念してた、ようミシュの人か!!」
 メゼツの言葉にみな「ようこそミシュガルドへ」と同じ挨拶を繰り返す娘が怪しいということで一致した。
 ところがメゼツがひとりでようミシュの人を追いかけることには反対された。やばくなったらテレポートできる自分が一番適任だと言っても、ゼトセとセレブハートがついていくと言ってきかない。
 結果としてようミシュの人を追いかけて敵の本拠地に乗り込む案はとん挫し、邪神が復活するまでに三大国が協力して対応策を練ることとなった。


 甲皇国歴年3月19日午前10時。邪神復活のXデイと想定される日が始まる。
 ミシュガルド大陸東海岸沖にSHW海軍が集結し、大陸東端にアルフヘイム第二軍が陣取る。大陸中央をアルフヘイム第三軍、西端を甲皇国第五軍が受け持つ。陸軍だけで50万を超える軍勢の最前線にはミシュガルド大陸を東西に横断する塹壕線が掘られた。
 メゼツはかつての戦友たちのいる甲皇国第五軍の受け持つ西側陣地へ来ていた。視察ではなく第五軍の司令官であるホロヴィズへの意見具申のためである。
「だから統一総司令部を作っておけば良かったじゃねーか。アルフヘイム第三軍と甲皇国第五軍の間が穴になってるぞ」
 ホロヴィズは我が子と意見を戦わせる。
「事ここに至ってはもうどうにもならん。誰が総司令官になっても遺恨が残るくらいなら、各国で戦線を分担したほうが良い」
「じゃあこういうのはどうだ。後詰めの予備部隊を三大国で一括して、各軍の増援要請に応じられるよう統一して管理するんだ」
「統一総司令部を妥協して統一予備軍か。それならば飲めるが……お主の発案ではあるまい、まさかアルフヘイムの誰かの入れ知恵か?」
「話はそれだけだ。じゃあな」
「こりゃ待て逃げるな。お主がその統一予備軍の司令官をやるのでなければ認めんぞ」
「俺がやんのかよ。いーけどよー、だったら参謀長にアルフヘイムのベルクェット=マニュルーガと副官にSHWのうんちをつけてくれ」
「アルフヘイムのベルクェットだと、認めぬ!」
「まだそんなこと言ってるのか。司令官が甲皇国の俺なんだからバランスとるには参謀長はアルフヘイムでいいだろ。参謀副長はロメオ、司令部付き武官にゲルとスズカくれ」
「くれって大福か何かをねだるみたいに」
 ホロヴィズの言葉を遮って砲声が鳴り爆炎が上がる。
 珍しく血相変えた秘書官シュエンが飛び込み状況を知らせた。
「とうとう招かれざる客がやって来ました」
「邪神が復活したんじゃな。詳細を報告しろ」
「機械神の尖兵たる機械歩兵キルが露払いとして各戦線に襲い掛かっています。その総数は70万」
「70万……」
 ホロヴィズは息を飲み、メゼツに向き合い肩に手を置いた。
「わかった。お主のやりたいようにやってみるがいい」


 肩に乗り邪神の声に耳を傾ける黒いフードの男。地の底から響くようなうなり声は戦線中央部の弱点を伝えていた。
「フハハハハハ、心得たり。キルども、第三軍と第五軍の中間点に攻勢をかけよ」
 黒フードの男に熱はなく、淡々と命令が出されていく。巨大な機械の一部品のように。


 アルフヘイム第三軍司令部では刻々と変わる状況についていけず幕僚たちは作戦図とにらめっこしている。ミシュガルド大陸の中央に〇に邪の一字、予測射程12キロ表す予報円が描かれている。
 物見に出していた斥候が帰還し、さらなる状況の悪化を伝えた。
「我が第三軍と甲皇国第五軍の間がキルの大軍勢によって突破されました」
 第三軍司令官の黒騎士は事実を受け入れられず、作戦図を再確認する。
「そこはSHWの陸戦隊で補強したはずだ」
「ダメです。SHWは陸では弱兵で潰走状態です」
「バカな。弱点を的確につかれたとでもいうのか」
 先手は取られてしまったが、戦線を維持しなくてはならない。防衛線が寸断されてしまえば、ここから大交易所までまともな防御施設はなかった。
「無意味かも知れないが増援を要請してくれ」
 増援がくるまでに持ちこたえることはできるだろうか。自分たちの後ろには無防備な民間人の街がある。最後の一兵になるまで持ちこたえるしかない。あきらめるわけにはいかなかった。


「メゼツさん、アルフヘイム第三軍から増援要請がきています」
 大交易所のミーリスの酒場に仮設された統一予備軍臨時司令部では酒場としても営業中なので、うんちが大声を出さなければならなかった。隣で甲皇国空軍から逐一もたらされる航空写真に目を通しながらメゼツも大声を出す。
「よし。9個師団、10万人送ってやれ!」
 メゼツの命令が届く前に酒場の窓を轟音と爆風が蹴破った。酒場の客の酔いもいっぺんに覚める程の衝撃。
 参謀副長ロメオ・バルバリーゴは客たちを伏せさせ、低い姿勢のまま窓の外をうかがった。
 ゴフンの聖堂の屋根が吹き飛んでしまっている。着弾した場所は明白だが、どこから砲撃されたのかは分からない。
 甲皇国空軍から機械神ダヴの手のひらに発射炎を観測したという報告で、機械神の予測射程を10倍に修正する。何もかもが想定外だった。
 増援どころではなくなってしまった。〇邪のど真ん中にコンパスの針を刺して作戦図に半径120キロ分の円を描くと、大交易所の外港まですっぽりと収まってしまうのである。
 高級住宅地だろうがスラムだろうが逃げ場はどこにもない。外港から市民を船で脱出させることもできず、予備軍を総動員して防御魔法の結界を張り続けるしかなかった。
 重い決断を下さなければならない。
 ひとりメゼツはアルフヘイム第三軍の受け持つ戦線中央部へテレポートした。
 大交易所から予備軍を動かせない以上、自分ひとりだけでも応援へ駆けつけようと決心して。
「メゼツさんの悪い病気が出てしまった」
 メゼツに代わってベルクェットが指揮を引き継いだ。部下のランダ・ノディオら魔術鬼兵隊に網の目のように防御魔法陣を張らせ、魔法の使えない人間の兵には被災した市民の救出を指示した。
 大交易所に降り続けている砲弾の雨は止むことはない。病院はおびただしい数負傷者であふれ、衛生材料の不足に悩まされていた。市民だけでなく、兵たちにも動揺が広がり始めている。統一予備軍は心物両面から追い詰められつつあった。
 孤立無援の大交易所を救うために、砲弾の雨をかいくぐって三国の連合艦隊が外港に急行する。退役していたペリソン提督が原隊復帰し、SHWの常勝の魔術師ヤー・ウィリーと共に艦隊を率いている。これ以上のない組み合わせ。
 港の中は船でごったがえし、一時平和な時代を取り戻したかのような活気となった。
 輸送艦からは三大国本国からの救援20万の精兵が次々とはしけに乗って降りてくる。
 精兵の中に堂々たる偉丈夫を見つけ、うんちは駆け寄った。
「傭兵王ゲオルク! 来てくれたんですね!!」
 長く伸ばした髭に白いものが混じるようになってはいたが、ゲオルクは戦場の空気をかいで若やいだように見えた。
「最大の激戦地で自分を売り込むことこそ傭兵の本懐!! この戦場は我々が買い占めた。君たちもメゼツ司令のもとへ行きたいのだろう。ここは私と魔術奇兵隊が持ちこたえて見せる。行け!」
 うんちたちはゲオルクの言葉に背中を押され、空になった輸送船に飛び乗る。
「発着時間? 5人くらい集まったらテキトーに出航すっから」
 輸送船の船長セレブハートは荒っぽい操船で大交易所を出発した。


 メゼツはテレポートで第三軍の司令部に出向き、詫びていた。
「すまねえ」
「どういうことだ。九個師団は? 十万の軍勢は?」
 黒騎士が詰め寄る。
「大交易所は今、邪神からの長距離砲撃にさらされている。これはおそらく大攻勢のための試射だ。予備軍を動かすわけにはいかなかった。代わりにもならねえだろうが俺も一兵卒となって戦線を支える」
「貴様は分かっていない。貴様がいかに強かったとしても、戦線を維持するには数が必要なのだ。貴様ひとりでは何の意味もない!」
 戦線を突破したキルの軍勢は60キロも進軍し、この司令部の目前に迫っていた。
「なあ、黒騎士。ミシュガルドが発見されて以来、毎日が祭みてえに騒がしかった。俺はよ、もうちょっとだけみんなとこの祭みてえな毎日を続けてえんだ」
 メゼツは急に席を立つと、そのまま敵正面へ向け喊声かんせいを上げて突撃した。
 結局自分にはこれしかないのだ。たとえ無意味だとしても。
「メゼツの大馬鹿野郎め」
 黒騎士もまた喊声かんせいを上げてこれに続く。
 キルの群れに割って入り、ただ前だけを見る。キルの群れすべてを押し返すことなどできないが、キルを指揮している邪神ダヴだけは倒してやる。メゼツは短いテレポートを多用し、ボロボロになりながらも突破した。
 目の前に壁が立ちふさがる。首が痛くなるほど見上げなければ顔を拝むこともできない巨体。邪神ダヴの手のひらがメゼツに向けられている。
 ダヴは詠唱もチャージもなしに軽々と地獄の業火を放った。
 メゼツは自分を焦がす煙の中で意識が落ちないようにこらえていたが、ついに力尽き倒れ伏す。
「メゼツさんわかりますか。私です、うんちです」
 統一予備軍が寸でのところで間に合い、キルたちの進撃を食い止めていた。うんちはメゼツを助け起こすが三白眼は開かない。
 戦線が再構築され第三軍司令部の危機は去ったが、依然として邪神ダヴは健在だ。メゼツは突出部に取り残され、ダヴは第二射のため手のひらを掲げた。
 意識不明と思われたメゼツの口が動く。しかし聞こえていたのはウンチダスの声だった。
「うんちよ、聞きなさい。お前は私のひり出したうんちなのです」
 メゼツに憑依される前のウンチダスの魂は消えておらず、メゼツの意識と入れ替わりに表に現れていた。
「やはり、あなたは私の母さんだったんですね。でも、それじゃメゼツさんの魂は……」
「安心なさい。メゼツの魂は今も私とともにあります。彼が起きてしまう前に聞きたい。あなたにとって優しくないこの世界、自分と引き換えに救いたいと思えますか?」
 うんちはようやく自分の使命というものに気づいた。今日、すべてはこの日のためだったのだ。
「捨てたものじゃないですよ、この世界も。」
「その答え、肯定と受け取ります。ウンチダスのうんちには世界をひっくり返すエネルギーがあるのです。さあ、念じなさい」
 うんちはお祭りのような日々を心に描き、念じた」
 ダヴの撃った炎は暴発し自らを焼いていく。火葬されて残った骨が大地を滑り落ち、底知れぬ地割れに飲み込まれていく。良き魂は世界の表に留まり、悪しき魂は世界の裏側へと追いやられる。
 キルの群れは動かなくなり、邪神ダヴは世界の裏側に再び封印された。
「なぜだ! なぜ私は表側にいる! 悪しき魂ではないというのか、この私が」
 黒いフードの男はこんな自分もこの世界にいて良いと言われた気がして、ほんの少しだけ微笑んだ。またすぐに冷徹な顔に戻り、人知れず去っていった。
 メゼツが目を覚ましたときすべては終わっていた。声を聞いた気がして、友人の姿を探す。
「おい! うんち! いるんだろ!」
 答えは返って来ない。
 それでもきっと祭のような日々は続いていく。


(大団円)

       

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