Neetel Inside ニートノベル
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ミシュガルドを救う22の方法
最終章 世界を救う4つめの方法

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 ガイシで頻発していた爆弾テロは収束し、再び甲皇国とアルフヘイムは融和路線に戻っていった。 
 ブラックホールの少年少女たちは自分たちがテロを止めていたなんてみじんも知らない。ただ大人にも負けないくらいの大冒険をしたんだという満足感に包まれている。
 リッターは親のもとに帰り、モローはドワールの家で飼われることになった。ケンカしていたシャーロットとホワイト・ハットはなぜだかとても親密になっている。フリオはあいかわらずブラックホールのリーダーだ。
 大交易所も暑いくらいの小春日和が続き、活気が戻りつつある。お祭りみたいな毎日が帰ってきたのだ。ただひとりケーゴだけが暗い顔をしていた。
 世の中には見ないほうが良いこともある。冒険からは2週間がたっていたが、あのときの光景がケーゴの脳裏にはまだ焼き付いていた。
 下宿先のベッドに仰向けになりながら、ケーゴは藍色の宝玉を掲げてぼおっと眺める。


 フリオがウルフバードを殴り倒した後、みんなはモローにエサをあげていて気付いていなかった。ケーゴだけがウルフバードとメゼツがいなくなっていることに気づき、2人を探した。
 探さなかったら、知らなくて良い真実を見ずに済んだのに。ケーゴは懊悩する。
 ウルフバードの首を絞めるメゼツの顔が焼き付いて離れない。幼いエルフの顔には表情というものがなくなっていた。ベルトコンベアに乗っている商品をチェックする流れ作業のように、無感情に淡々と。
 倒れゆくウルフバードの懐から涙のように光る何かがこぼれ落ちた。ケーゴが盗み見をしていた壁のくぼみのほうへ。音をたてればこちらに気づくかも知れない。地面に落ちる寸前にケーゴは手だけ出してキャッチ。手を開いてみると、それは藍色に光る宝玉だった。


 その日以来ケーゴは仲間にも打ち明けられず、ただ宝玉を眺めて暮らしている。
「これ、どうしたらいいんだろう」
 宝玉は何も答えてくれない。その時、部屋の扉が乱暴に開け放たれ、招かれざる客が代わりに答えた。
「何、悶々としてんのよ」
 ケーゴはとっさにポケットの中へ宝玉をねじ込んだ。
「勝手に入ってくるなよ、ベルウッド」
 灰色の髪のみすぼらしい身なりの少女。この靴磨きの少女はずうずうしくもケーゴの部屋に出入りしては主のように振る舞っていた。
「今、何か隠したわね。見せなさい」
「疲れてんだから、つっかかってくんなよ」
 ケーゴは相手せず、自分が部屋を出ていった。間借りしている2階から階段を駆け下り、逃げ込むように共同浴場へ駆け込んだ。追ってきたベルウッドは立ち止まる。
 ミシュガルドは水資源が豊富で、ケーゴが借りている酒場の2階のような下宿でも、1階にある共同浴場を使うことができた。
 スッポンのようにしつこいベルウッドも男湯までは追ってこないだろう。脱衣所でスッポンポンになって、ケーゴは浴場へ入った。
 その考えは甘かった。ベルウッドは脱衣所に忍び込むぐらいのことは平気でやる。
「あの人フフフフーン♪」
 浴場の曇りクリスタルの扉からケーゴの鼻歌が漏れ聞こえ、ブラウンの瞳はつい釘づけになってしまう。いけない、いけない。今はそっちのお宝を見ている場合ではない。
 ベルウッドはいっちょ前にほほを赤らめながら、ケーゴの脱ぎ捨てた服を物色し始める。ポケットに手を突っ込み、まさぐると中から細切れになった干し肉が出てきた。ポケットを裏返してみても、もう何も入っていない。
 ベルウッドはあきらめて犯行現場を立ち去ろうと思ったが、職業がら汚い靴に目が留まる。激戦の跡でケーゴの革靴は泥だらけになっていた。
 磨いてあげれば「ベル、お前が必要なんだ」といっしょに冒険に連れて行ってくれるかも知れない。妄想をたくましくするベルウッドはさっそく右の革靴の泥をブラシで落とした。ぼろきれでからぶきした後に保革クリームをつけて艶がでるまで磨く。
 左の革靴にとりかかったところで、革靴のかかとからカラコロと音が鳴るのに気付いた。
 革靴にかかる衝撃をやわらげるためにか、かかとの部分に小さな空洞があり、引き出しのように開いた。中から出てきた宝玉を手にし、ベルウッドがはしゃぐ。
「お宝。お宝」
「あー! 返せよ」
 風呂からあがったケーゴと鉢合わせになり、ベルウッドは目を覆った。指の間からケーゴの体をまじまじと見ながら、とってつけたように非難する。
「ちょっと、何で裸なのよ!!」
「風呂入ってたからだよ!!!」
 ケーゴは裸のままベルウッドと宝玉を取り合う。
「どうせ、アンネリエにプレゼントするつもりだったんでしょ」
 アンネリエはケーゴの思い人である。声の出せない彼女とコミニュケーションをとって仲良くしたいとは思っていたが、ケーゴにかぎってプレゼントという発想はない。
「ちげーよ、そんなんじゃねーよ」
 第3者から見れば痴話げんかに見えそうだ。
 現に仇討ちのためにケーゴの下宿を探り当て、騒がしい脱衣所に飛び込んだウルフバードの弟は修羅場だと思った。
「兄様の仇、勝負し……えぇ。なんか、ごめんなさい」
 驚きのあまり謝ってしまう。根はやさしい子なのだ。
「えーと、どちら様?」
「ふざけないでください。貴方が殺したウルフバードの弟、レイン・フォビアです」
 フリルのついた服の上から外套をはおり、そこからタイツで強調された足がすらりと伸びている。首から赤い宝石のブローチをさげ、ベルトには二本差し。後ろ髪を細く長く背中までたらした美少年。本当に兄弟か疑わしいくらいウルフバードの要素がない。
 しかし、実の兄弟以上に2人は同じ。レインはウルフバードのクローンなのだから。
「というか、なんで裸なんですか!!」
「だから、風呂入ってたからだよ!!!」
 ケーゴはレインから猶予をもらって、服を着た。
「だいたい俺はウルフバードを殺してなんか……」
「それじゃ、そっちのおでこちゃんですか?」
 レインの矛先が変わる。本当のことを言ったとしても、今度はメゼツがつけ狙われるだけだろう。そしてきっと、どちらかが死ぬ。
「あー、もー、そいつは関係ねー。全部俺がやったことだ」
「ついに白状しましたね!」
 レインは水の入った瓶を開け、水を矢のように変形させて放った。ケーゴは宝剣の炎でこれを相殺。立ちこめた湯気が晴れると、間合いを詰めたケーゴが迫っていた。
 しかし、これが裏目に出る。
 ウルフバードの魔法使いのイメージに引きずられ、近接戦闘を挑んでしまった。レインは兄とは正反対で、近距離においてその本領を発揮する。対するケーゴは経験を少しは積んだが、かといってすぐに剣術が身につくはずもない。
 レインは左の鞘から右手ですばやく刺突剣レイピアを抜き、ケーゴの胸を突いた。ケーゴは右手の宝剣でこれをさばくが、レインの力が強くて押し返せない。レインはすかさず右の鞘から左手でマンゴーシュを抜きケーゴの右肩を裂いた。ケーゴが何かを握っている左手をレインに伸ばす。
 レインはバックステップで距離をとった。ケーゴの左手に未知の暗器でも握られているかのように、勝手に警戒している。
「兄様がお前なんかに負けるはずない。卑怯な手を使ったに決まってます」
 今度はケーゴが宝剣を叩きつける。レインはマンゴーシュでこれを受け、刺突剣レイピアでケーゴの左肩を刺した。
 小柄なレインでもマンゴーシュのような短剣と刺突剣レイピアのような軽い剣を組み合わせることにより、二刀流を扱うことができた。右を止めれば左が、左を止めれば右が。左右2本の剣のどちらかをくらうはめになる。
「兄様はボクの理想です。できそこないのボクのほうが死ぬべきだったんです」
 レインは自分がクローンであることを知らずそう思い込んでいたが、レインこそがウルフバードにとっての理想だ。ウルフバードにはフォビア家に受け継がれてきた体質が発現しなかった。剣の強度により、肉体強度が上方修正されるという能力が。
 本当は健康な体を夢見ていた。フォビア家の体質を受け継ぎ、立派に家督を継ぎたかった。そういった希望を込め、クローン体に一部遺伝子操作を加えて生まれてきたのがレインだった。
 本来の自分はこうなんだという自分の他の可能性。
「ハア? それマジで言ってんの?」
「むきー」
 あおられたレインが刺突剣レイピアをしならせる。
 ケーゴはかわしも防ぎもしない。
 傷ついた右肩で受ける。
「なぜ、防がない」と今度はマンゴーシュで突き刺す。
 ケーゴはまだ防がない。
 傷ついた左肩で受ける。
 ケーゴは右も左も止めず、自由になった右手の宝剣で刺突剣レイピアを思い切り叩き折った。剣術においてはレインに敵わないが、剣自体の強度は宝剣のほうに軍配が上がった。
 刺突剣レイピアが折られたことにより上方修正パッシブスキルが半減。さらに追い打ちをかけるようにケーゴの幻の左が繰り出される。ケーゴはレインの目の前で拳を止め、手を開いた。藍色の宝玉が光っている。
「これ、お前の兄ちゃんの肩身なんだ。受け取ってくれないかな」
 レインは呆けた顔で宝玉を受け取る。
「ずっと、これを渡そうとしてたんですか? 貴方いい人ですね」
 レインは自分の心に芽生えた新たな感情を振り払うように首を振った。
「今日のところはこれで引き下がります。でも復讐が終わったわけではありません」
 レインはそう言い残し嵐のように去っていった。残されたのは気まずいふたり。
 ケーゴのだらりと下がった肩をベルウッドが緑の布を巻いて止血する。
「ごめん。宝玉のこと勝手に勘違いして」
 ケーゴは聞き違いかと思って、ベルウッドの顔を覗き込んだ。こんなにじっくりと顔を合わせたのは初めてかも知れない。
「あ、あのさ。靴磨いてくれてありがとな、片方だけだったけど」


 翌日もケーゴはベッドに仰向けになりながら、ぼおっとしていた。外が騒がしく、馬車馬のいななきが聞こえる。
「ケーゴ! あーそーぼー」
 フリオの元気な声が聞こえる。2階の窓から顔を出すと、アンネリエの黒板が目に入る。みんな心配しているよ。そう書かれている。
「暗い顔なんて、らしくないわよ」
 ベルウッドが言う。
「おいしいものを食べるとハッピーになれますよ」
 ドワールが言う。
「僕と友達になってくれる?」
 リッターが言う。
「ボクと勝負しなさい!」
 レインまでいる。
 馬車にはホワイト・ハット、シャーロット、シャルロット、ルーが乗っていて、御者のメゼツが何事か叫んでいる。
「さあ、新しい冒険に行くぞ」
 ケーゴの顔には笑顔が戻っていた。


/(^o^)\ナンテコッタイ

       

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