Neetel Inside 文芸新都
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~9~

 夜中の3時……夜空はそろそろ曙光の支度を始めていた。
ダニィとモニークと同じ黒兎人族の御者にとって、朝日は体調を悪くする原因だ。特に蝙蝠面をした御者にとっては、人間面寄りのダニィやモニークよりも朝日の日差しはキツイ。更に言うなら御者は高齢の老人だった。現在の若者に比べても、朝日に対する抵抗力が弱まっている。
ほんの30分でも浴びようものなら、脱水症状と火傷を負いかねない。

「……どうも すみましぇんねぇ……花婿しゃん、花嫁しゃん‥…
折角のハネムーンだと言うのに……」

舌足らずな発音が愛嬌を誘う御者の喋りに、
新婚気分で晴れた気分のダニィとモニークは思わず微笑んだ。

「……良いんですよ 僕らも丁度 眠たかったところですから」
「安心して眠って下さい」

「ありがとう……歳を取るとどうも日差しには弱くてのォ……」

蝙蝠面の御者は、申し訳なさそうに耳たぶをかきながら
ダニィとモニークの優しさに甘えることにした。

「まあ、儂も時々起きて見回りするので お2人は安心して眠っててくだしゃいな」

「……何を言いますか、旅は道連れ世は情けと言います。交代交代で番をしましょう。」

「そんな……花婿にそんなことしゃせたら、儂が会長しゃんに怒りゃれるではないでしゅか…」

「……会長さんには内緒にしておきましょう。
それに、僕の方がまだ日差しには慣れています。」

正直言ってダニィも この老人だけに見張りをさせるのは不安だった。
何も起きないとは思うが、ダニィと御者の交代交代で見張りをすることにした。

「では、先ず花婿しゃんから休んで下しゃいな……」

御者に言われ、ダニィとモニークは休むことにした。
馬車の中は、床がちょうど2人分寝転がれるほどのスペースがある。
毛布もあり、日差しを防ぐカーテンも窓にはついている。

「モニーク……こっちに」
ダニィはモニークを抱き寄せ、彼女の頬を優しく包み込む。

「心配しないで……何があっても僕が傍にいるから。」

そう言うと、ダニィはモニークの唇に優しくキスをした。
モニークも優しくそれを受け入れる。

2人は互いに抱きしめながら眠るのだった。


まだ日は昇ってはいない……せめて、日が昇るまでは外に居ようと御者は周囲を歩き回っていた。だが、御者は日が昇るのを見ることなく生涯を終えることになる。

       

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