Neetel Inside 文芸新都
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~10~

 突如として、御者の首にワイヤーが巻きつけられる

「か……は!!!」
突然のことに恐怖のあまり声も出ない御者……
足掻こうにもそのご老体では180cmもある大柄な男の力を振りほどくことなど出来るはずもない。

「ぅげ……」
ワイヤーから滲み出る血の滝が御者の襟元を赤く染め上げる。

「ケッ……大人しく寝てろ 老いぼれが」
アーネストは御者の遺体を崖下へと投げつけると、そのまま身を隠した。
今の動きを中にいるダニィに気づかれたかもしれない。
いくら、相手が自分より10歳以上年下のオスガキと言えど油断は出来ない。
女を護る男の足掻きなのだから、ヘタをすればこちらが痛手を負うかもしれない。

アーネストが馬車の影に潜んだと同時に、ダニィが馬車から出てきた。
先ほどの御者が投げ捨てられる音を察知したからである。
黒兎人族は別名 多耳人族と呼ばれるほど音に敏感な亜人族である。
蝙蝠の持つエコロケーション能力、兎の長耳が合わさり、どんな物音も聞き取ってしまうのだ。

(明らかに何か…いる……)

ダニィは感じ取っていた。相手は大男であることも。
だが、今更引くに引けない。今この場でモニークを護ってやれるのは自分しか居ないのだから……

案の定、馬車から外に出て間も無くのことだった。
アーネストが突如ダニィにのしかかるかのように飛びかかった。

身の丈4~50cm以上の体格差のある大男にのしかかられ、ダニィは起き上がることすら出来なかった。

「くたばりやがれ!!このクソガキ!!」

鍛え上げられたアーネストの拳がダニィの頬に喰いこむ。

「ィギャアッ!!ァアッ!!」
殴られてはいたものの、モニークを護る一心が勝ったのか
ダニィは蝙蝠人特有の口蓋音を発しながら雄叫びをあげる。

「く……ぁ……!!」

白兎人族のアーネストにとって、その声は苦痛極まりない声だった。
だが、アーネストは怯みながらも、前歯で唇を血が滲むまで食いしばりながら
ダニィへの拳の応酬を止めようとしなかった。

「ギャゥウ!!ガルゥウウウウウウ!!!」
顔面を血みどろにしながらも、ダニィはアーネストの腕に噛み付こうとした。
黒兎人族の牙は、他の種族にとって病原菌を誘発する恐ろしい凶器だ。
ヘタをすれば狂犬病で死ぬこともある。


「やめてえええええ!!」

そう言いながら、モニークが近くにあった木の棒でアーネストの頭を殴りつける。
「ぐわがッ……!!」
痛みで一瞬視界が潰れ、頭から血を流す
アーネストだったが、すぐさまモニークの方を向き直りその顔を殴りつける。

「痛ぇぞごらぁぁああああああああああ!!!」

容赦ないアーネストの拳がモニークの鼻面に炸裂する。

「ぁぎぁッ!!!!」
それまでダニィですら聞いたことのない悲痛な声をあげ、モニークは鼻から血を噴出して仰向けに倒れ込んだ。

「よせ……やめろぉおおおおおおおおおおお!!!」

ダニィはアーネストの腰に刺さっている警棒を抜こうとするが、
アーネストはその手を砕くかのごとく、ダニィに肘打ちを食らわせる。

「げぁッ!!」

「死ねぇッ!!このッ!!このッ!!」
アーネストの強烈な拳がダニィに容赦なく襲いかかる。

(……モニーク……っ モニークっ……っ!!)

そう叫びながら抵抗を続けようとするダニィも、
流石にアーネストの拳の応酬の前にはもはや成す術は無かった。
身体が巨大な岩に押しつぶされたかのように、ピクリとも動かない。

ダニィは自分が昏倒状態へと陥ったことに気付くのはそれから2日経過し、
目覚めた時のことである。そう全てが手遅れだと悟ったその瞬間、
彼は成す術もなく、モニークを救えなかったことを嘆くのであった。


       

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