Neetel Inside 文芸新都
表紙

黒兎物語 ~ラディアータ~
決着

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 兎人族は白兵戦のプロである。白も黒もそれは変わりない事実だ。
それは彼等が剣やナイフといった刃物を使った戦闘に長けているのもあるが、
なにより彼ら自身の身につけた徒手格闘術にある。

身体の部位の中でも最も長いリーチを発揮できる足……そこから繰り出される
脚力を最大限に生かした蹴り技は、リーチと威力を兼ね備えた矛である。
そんな蹴り技をベースに組み上げられた格闘技"マサカリ"(Massacre……古代白兎語で殺戮を表す言葉が由来か?)。
兎人族の兵士であれば、誰もがその技術を叩き込まれる。
特に兎面の兵士によって繰り出されるマサカリの蹴りは、一撃必殺の威力を誇る。
その破壊力とリーチ故、アルフヘイムでは、立ち技最強の格闘技という呼び名も高い。

「今だからはっきりと言おう……俺はお前が憎かった。
モニークの愛を享受するお前が……!」

最後に残った椅子を蹴り飛ばしながら、アーネストは感情をむき出しにして
ディオゴを睨んだ。

「お前と違って俺はモニークとは血の繋がりがない……
だからこそ、愛される資格は充分にあった筈だ…
……なのに、モニークは……俺を愛してくれなかった。
どうしてだ? お前はモニークに愛される資格なんぞ無いのに……!!
どうして俺よりも お前の方がモニークに愛されているんだ!!」

アーネストの独り善がりな愛を前にディオゴは、
まるで自分を見ているようだとしみじみと思った。
傍から見ればアーネストとモニークは20は離れているし、年齢的にも不釣り合いだと言える。
まあ世の中年の差婚というのも無くはないのでそこは百歩譲ったとしても、
モニークには許嫁が居るのだ。おまけに挙式を済ませたばかりの人妻だ。
だが、それでもアーネストはモニークを諦めはしなかった。
ここまで来ると、アーネストは重度のストーカーだ。

だが、そう言う自分を傍から見てみよう。
ディオゴとモニークは実の兄妹だし、血の繋がりがある以上、近親婚となってしまう。
近親交配は遺伝子的に重大な欠陥を招く危険性がある。
ディオゴは完全なシスコン、それも妹に対して性的興奮を覚える重度のシスコンだ。
互いに、世間からは受け入れられるハズもない。

「‥…さあな 女心は俺には分からねェさ……
だが、少なくとも俺は年上の義弟を持つのはゴメンだぜ」

言い返す言葉はなかった。だが、少なくともこんな奴を
義弟にするなど御免こうむりたかった。

(俺にとっての義弟は……ダニィ……お前だけだ。俺を義兄と慕ってくれ、
モニークを愛してくれたお前以外には……考えられない。)

その瞬間、今までもやが掛かっていた心が晴れていくのを
ディオゴは感じた。

(……そうか やっぱり俺は……ダニィ……お前を認めていたんだな……)

認めていたからこそ、ディオゴの目にはダニィがとてもとても眩しかったんだ。
だから思わず顔を背けてしまったんだ。

ディオゴの顔はアーネストを内に滾る焔のついた瞳で見据えていた。
見据えられたことに怒りが頂点に達したのか…刹那、
アーネストの右足のローキックがディオゴの金玉めがけて飛び込んできた。
それをカットすべく、ディオゴの左足が彼のローキックに喰いこむ。

キックにおいてもっとも警戒すべきは、爪先や足の甲と思われがちだが
実はそうではない。それは弁慶の泣き所と呼ばれる……脛(すね)に他ならない。
脛の骨による打撃は腕を破壊し、肋骨を粉砕するほどの強烈さを誇るのだ。
分厚い皮膚は体外からの衝撃を防御するために必要ではあるが、
逆に骨からの衝撃を相手に与える際には障害となってしまう。故に、この急所を差し出した強靭な破壊力を誇るキックは
長年の激痛と引き換えに得られる一撃必殺となる。

故に、先ほどのアーネストの右足のローキックは脛骨を使って蹴り込まれたものであり、
ディオゴのローキックのカットも左足の脛骨をアーネストのそれに叩き込むかのように
繰り出されたカウンター技である。
だが、アーネストの蹴りは兎面であるが故に強力だ。
そのため、本来ならばカウンターになるはずがディオゴの蹴りは相殺されてしまった。

だが、ガラ空きになったアーネストの左頬に向けてディオゴの右フックが炸裂する。
「ぐッ!」

ひるんだ隙にディオゴは右足でアーネストの喉仏に向かって軍靴のつま先を
蹴り込む

「ぉぐあァッ!!!!」

血潮を吐き散らすアーネストは、勢い余って仰向けに倒れ込む。
口から噴水のように血が噴き出し、アーネストは喉を抑えて悶え苦しんだ。

「お楽しみはこれからだ、アーネスト」
そう言うと、ディオゴはアーネストの金玉を軍靴で渾身の恨みを込めて踏みつけた。

「ぉ……ぐぅおオッ!!!」

踏みつけられたのとタイミングを同じくして、
アーネストの口から舌が飛び出した。飛び出した舌を噛み締めるアーネストの
額やこめかみから徐々に脂汗が滲み出し、血の気が引いていく。
そして、その等価交換かのように股間から血が滲み出していく。
その姿はまるで股間から血を流す、生理中の小娘のように
何から何まで全てが重々しい苦悶に満ちていた。

「は……ぁあ……ぁ……っ」

ふと彼の陰部に押し寄せる開放感……何かが弾けたような開放感のあまり、
力が入らず、失禁しているかのように感じられた。
だが、その開放感も一瞬の内にお開きにされ、
もはや稲妻が襲いかかったような強烈な刺すような痛みが彼の腹部と金玉へと襲いかかった。

「おあ……ぁっ……あぁ……っ………か……ァアあ……っ!!!!」

アーネストは激痛のあまり、金玉を抑えて悶絶していた。
全身は小刻みに震え、涙に塗れた目は白目を剥いている。
腹と腰をまるで巨大な槍で串刺しにされ、グリグリと掻き回されて
抉りたおされてるような痛み……下半身で共鳴し合う鋭い痛みのせいで
とてもとても立っていることなど出来ない。
だが、このまま安静にしていたところで全てがマシになるわけでもない。
もうこの痛みを今すぐ取り除いてくれるのなら、なんでもすると。
こんな痛みを知るとわかっていたのなら、初めからモニークに付きまとったりなどしなかった。
ディオゴの怒りを買う真似などしなかった筈なのに……
どうしてこんな……痛……痛い……

……すまない。
想像を絶する痛みのあまり、作者の私も思わず悶絶してしまっていた。
どうか もうこれ以上、書かせないで欲しい。。

「……そいつはダニィと俺の分だ……そしてこいつが……モニークの分だッッ!!!」
ディオゴは水牛の背中のコブの如く膨れ上がった右手の拳をカッと開き、
奴の股間を鷲掴みにすると、もぎ取るかのように残った金玉を握りつぶした。

「うぁアァァ……あ……あぁッ!!!」
再び襲いかかった激痛に、アーネストは凄まじい悶絶声を上げてヨダレと涙を噴き出す。
そして白目を向き、天へと助けを求めるかのように手を伸ばした。

「ぁあ……あ‥……あ」

断末魔の如き 悶絶声がフィナーレを迎えるのと同時に
アーネストの手から力が抜け、手の甲が地面を叩くと、彼はそのまま動かなくなった。

「………はぁーっ……はぁーっ……」
血みどろになった右手は、もぎ取られたアーネストの金玉を握っていた。
ディオゴは潰れた金玉をアーネストの顔面に投げ捨てると、唾を吐き捨てた。

       

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