Neetel Inside 文芸新都
表紙

黒兎物語 ~ラディアータ~
不変の愛

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マリーが案内された先には全身を包帯で覆われたダニィとモニークの姿があった。まるで発掘されたミイラの如く変わり果てた2人の身体からは包帯の下から血が染み出していた。こんな姿を見て、まだ生きていると言われて一体誰が信じるというのだろう。

「うぅ・・・」
ダート・スタンは変わり果てた2人の姿に思わず、口をおさえる。

「む・・・むごすぎる・・・あまりにもむごすぎる・・・」
口をおさえた手を涙が濡らす・・・
昨日まであんな幸せそうにしていた
オシドリですら羨むほど、仲睦まじさで満ち溢れていた若き黒兎の夫婦が、まるで屠殺されたジビエの様に無惨に転がっている。ダニィに至っては、翼がぐちゃみそに破壊されていた。骨が飛び出して肉を貫通し、皮膚と肉が絡み合うように入り組み、赤黒の模様の肉塊となっており、まるで骨で内側から串刺しにされたかのように肉塊を突き破っている。まるで骨組みをバキバキに折られた傘のように複雑骨折を起こし、最早切断するしか無い程まで潰されていた。モニークに至っては、あまりの
非道く変わり果てた姿を考慮してか全身を包帯で巻かれていた。しかし、隙間から見える地肌は紫色に染まっている。だが、顔を覆う包帯でも腫れ上がった顔の形を隠すことは出来なかった。もし、包帯を外していたら豚の死体と間違える程、無残に腫れ上がっているのが分かった。

「・・・きれい」
突如としてマリーが不釣り合いな一言を発っした。その言葉に一瞬誰もが耳を疑った。あまりの驚きに誰も何も言えなかった。マリーは眠る2人の許へと歩み寄る。
「こんな姿になっても・・・手を繋いで・・・眠ってるのね・・・」
ダニィとモニークは互いに手を握りしめ、眠りについていた。
2人を看病していた筈のヴィトーも、ツィツィも全く気付いていなかった。マリーはそんな2人の手を優しく優しく見つめ、微笑んだ。
「・・・・・・まるでお互いのこと心配してるみたい・・・」

互いに死体のようだ、無惨な姿だと言われてもなお、変わることなく
2人は握り合う・・・愛する者の手を。
目覚めた時、どうか無事で居てくれと願うかのように。もし、このまま天国へと旅立ってしまうのなら、どうか一緒に旅立とうと呼び掛け合うかのように。
マリーにはそんな2人の姿が何よりも美しく見えた。マリーの瞳から清らかな涙が流れる。マリーは2人の手を両手に抱えると額を乗せ、祈るかのように目を閉じた。

「ダニィ様、モニーク様・・・あなた方の愛がこんなにも・・・あったかい・・・」
マリーは2人の広大な海のように深い底知れぬ愛に心を打たれ、ただひたすら祈りを捧げる。
この世界に広がる広大な闇の中で、いつまでも輝き続ける眩い光のような ちっぽけでも確かにそこに在る
愛・・・決っして消えない焔(ほむら)のような愛が消えることがないようにと祈って。
巫女医者マリーの祈りが、このアルフヘイムの地下に根を張る精霊樹を呼び覚ましていく・・・2人の愛がいつまでも続くことを祈って・・・
2人の身体が光を帯び、癒されていく・・・
無慈悲な神の贖罪が、始まろうとしていた・・・

       

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