Neetel Inside 文芸新都
表紙

黒兎物語 ~ラディアータ~
祝福の場

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~1~
 黒兎人族の暮らす巨大な洞窟は元々は隕石の衝突で形成されたクレーターであった。だが、長きに渡る地殻変動の末に土砂崩れや、地割れによって密封されたり、大嵐や、津波、それによって生じた海による潮の満ち引きで開放されたり削られたりを繰り返したが故に一言では語りきれない複雑な地形となっている。
上空から見上げれば陥没した穴が点在し、スプーンで乱雑にえぐられたアイスクリームの様になっている。
その穴の隙間から、黒兎人族の村々が顔を出していた。それは月を覗くためである。

ヴィトー・J・コルレオーネが村長を勤めるこのコルレオーネ村もそんな村の一つだ。彼岸花が咲き乱れるこのコルレオーネ村は、彼岸花から得られる漢方薬を名産品としている。
満月の晩、そこではある2人の新郎新婦の結婚式が執り行われていた。

「おめでとうー!!」
「幸せになー!!」
兎面、人間面、蝙蝠面の黒兎人達が
彼等の前途を祝福していた。
だが、その光景をある黒兎人族の青年が青ざめた表情で見つめていた。
彼の名はディオゴ・J・コルレオーネ、齢は18歳。
褐色の肌、6つ耳、黒みがかった茶髪、人間面の典型的な黒兎人の男性だ。筋肉質な身体にやや不釣り合いな美しい面構えから、彼がまだ成人手前の18歳の若者であることが見て取れた。一見、健康そのものの肉体ではあるが、顔色は血の気が引いており、身体を支え切れず腰から深々とめり込むかのように彼は座っている。

「大丈夫~? ディオゴー」
ディオゴの従姉ツィツィ・キィキィがほろ酔いで、話しかけてきた。
黒兎人族の血を引く彼女であるが、
コウモリ人族の母の特徴を強く受け継いだのか、外見はコウモリ人族の
それである。手足は蝙蝠の特徴が目立つが、人間面の白色の肌に、薄茶色のショートへアーの上には2つの蝙蝠耳が生えている。髪と蝙蝠耳はほぼ同化しており、境目が不明瞭である。背中から生える蝙蝠の翼は、髪や耳と同じ色をしており、丈は半身程もある。典型的なコウモリ人族の成人女性で、25歳手前にして大人の女性の魅力に溢れている。

「・・・姉御」
「折角の祝いの席なんだからサー、楽しく行こうよ。」
ツィツィは青ざめた表情をしたディオゴの手を握る、その手は少しばかり震えており、氷の様に冷え切っていた。
「・・・無理なモンは無理なんだよ 姉御 こういう祝いの場が嫌いって何回言ったら分かるんだ?」
ほろ酔いのツィツィに背中を優しく叩いてもらい、半ばグロッキーなディオゴは重々しく瞬きをして身体を起こす。ディオゴは宴会恐怖症だ。
14歳にして軍隊に入り、4~5年に渡って寮暮らしをしている。祝い事が好きでしょっちゅう宴会の場を設ける先輩に気を遣って、行きたくもない宴会に参加させられる日々で彼は宴会恐怖症を患った。祝い事と言いながら、酔った先輩達に説教されたり、叩かれたり、裸に剥かれて宴会芸をやらされたり、挨拶まわりに行かざるを得ない雰囲気は思春期の彼にとって苦痛でしかなかった。
だから祝い事となると彼は決まって
理由をつけて欠席しようとしていた。
「もぉ~ 意気地無いな~ 祝い事って言っても、今日は特別な日じゃないんだぞー ったく!愛しの妺の結婚式なんだから、こういう時ぐらいお兄ちゃんらしくしろってーの!」
呆れながらツィツィは愛する従弟ディオゴの手を引き、重い身体を起こさせる。
「姉御 よしてくれよー 姉御っ
姉御ぉー」
そう言いながらも、先程よりも少しは身体が軽くなったのか、ディオゴは身体を起こし、歩き出した。
(・・・あったけーな)
従姉のツィツィの温かい手に握られ、自分の冷え切った手が暖かくなっていくのをディオゴは感じた。
(あの時も震える俺の手をこうして握ってくれたっけなぁ・・・)
ディオゴは10歳の時、当時16歳のツィツィ・キィキィとベッドを共にしたあの初夜の日のことを思い出していた。女を知らぬディオゴは緊張のあまり震えていたが、そんな彼をツィツィは優しく抱きしめた。あの時、感じた女の温もりをディオゴは今でも忘れられない。今もこうして再愛する従姉の手の温もりを感じながら、ディオゴは一歩一歩 式場へと歩いていくのだった。

       

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