Neetel Inside 文芸新都
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黒兎物語 ~ラディアータ~
休息

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~休息~

 老いたマルネ・ポーロの右手が筆を止める。
彼マルネ・ポーロはミシュガルド見聞録を書き上げた偉大な歴史家であると同時に
バーボンハイム、バーボンハウザーという別名義で黒兎物語を執筆していた。
どちらの名義もその意味は「バーボンの家」とか、「バーボンの家の守護者」といった意味があり、
バーボン、つまりは酒に関する名前である。どうしてそんな名前にしたのかと問われ、
マルネは
「酔った男が酒場でしみじみと過去を語っている雰囲気が好きだから」と語ったという。

その意味があってか、
本当にマルネが酔った弾みで書いたせいか、物語中で時折、
誤字脱字が目立ったり、やけに描写が薄っぺらいエピソードがあったり、その逆もあったり、
時に過激で露骨な性的描写が多いエピソードがあったりと、やけに世の中への嫌悪感に溢れた描写が多かったりと、
アルフヘイム・ミシュガルドの文献の中でも怪作であることで知られている。

アルフヘイムで生まれ育ち、その後新大陸ミシュガルドに渡り、波乱に満ちた人生を歩んだ…
実在した黒兎人族の男女の人生を描いた長編 黒兎物語を書き上げた彼は、
晩年にやり残したことがあることに気付く。

彼の右手はもう迫り来る病のために、枯れ木のようにやせ衰えていた。

「ごほっ……ごほっ……」

咳こみ机に屈っ伏すマルネ……その姿はあまりにも苦しそうだ。
おそらく、筆を握っていることすら苦痛でしかないのだろう。
だが、彼は諦めず再び筆をとった。

「はぁっ……はぁっ……ダニィ……」

筆を取りながらマルネはかつての友人ダニィ・ファルコーネに語りかけた。

「……君の義兄……ディオゴは……愛に苦悩した男だったのだ……
彼もまた……君と同じ女を愛した……男だったのだ……」

マルネの目からはディオゴの愛に心打たれた澄んだ涙が流れた。

「モニークを愛するが故に……彼は……君を愛するモニークを傷つけたくなかったのだ……
彼はきっと……心の底では……自分を兄と慕ってくれる君を……弟として……愛していたのだ……
だが……誰よりも愛深き故に その愛を表現するには……あまりにも不器用すぎたが故に………
君を……憎むしかなかったのだ……愛していた筈の君を突き放すしかなかったのだ……」

マルネは愛に不器用だったディオゴを想い、涙を流した。
そして、彼の深き愛をどうか認めて欲しいと
此処ではない何処かに居るダニィに問いかけた。

「どうか彼を……許してやってくれ……ダニィ……」

マルネの筆が悲しき愛の旋律を再び奏でるのだった……



       

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