Neetel Inside 文芸新都
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ちんちん
ちんちん

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「おい、起きろよ」
誰だよ、もう。オレの睡眠を邪魔するのは。今日は日曜日だぞ。もっと寝かせろ…。
「起きろって。大変だぜ。大変」
うるさいなぁ。お前の声に緊迫感が無いから、大変さが全然伝わらないぜ。いいから、もっと寝かせてくれ…。
「起きろって。ばか。あほまぬけ」
「あー、もう五月蝿い。誰だよ一体」
オレはもそもそと布団から抜け出した。しかし辺りを見回しても人影は見当たらない。
「あれ、夢か?確かに変なおっさんの声が聞こえたんだけどなぁ」
「誰が変なおっさんだよ」
あれ、また声が聞こえたぞ。オレが声のしたほうをみると、そこにはちんちんがあった。
「や、おはよう」
可愛らしい皮かむりのちんちんはぷるるんと震えた。
オレはこいつを見たことがある。というか、毎日見ている。この控えめな大きさ。皮のかむり具合。鼻を突く刺激臭…。
「お前、まさかオレの…?」
「流石だな、良く気づいた。オレはお前のチンチンさ」
オレは反射的に自分の下腹部を触った。そこにあるはずべきものが無い。決して他人に自慢できるような立派なものではないが、それでもオレにとってはかけがえの無いものが無い。
「お前…、何勝手に独立してるんだよ」
「オレだって独立する気は無かったよ。目が覚めたら取れていたんだ」
オレは昨晩のことを思い出していた。新境地を気付こうと、高圧電流を用いた自慰行為に挑戦していたのだ。
「昨晩無茶したせいかなぁ…」
「電流を流したことか?あれはお前、痛かったぞ。お前は気持ち良いかもしれないが、ちんちんの身にもなれってんだ」
「馬鹿言うな。昨晩の高圧電流オナニーはオレも痛かったさ。主人も主人の辛さがある」
「なら、やらなければいいだろう」
なんだこいつは。ちんちんの癖に主人であるオレに逆らうとは。ちんちんに説教されるなんて、人生最大の屈辱だ。
オレはカチンときてちんちんの弱点であろうたまたまに軽くデコピンを放った。何人もの男たちに地獄を見せてきたオレの「デスデコピン」まさか自分のちんちんに放つ事になるとはな。
「うぐおおおお」
「うぐおおおお」
なんてことだ。どうも感覚は共有しているらしい。オレの放ったデコピンのダメージは、そっくりそのままオレにも襲い掛かる。
男性諸君はこの痛みがよくわかるだろう。たまたまへのデコピンは、とても文章では表すことができない。女性諸君には生涯わからない感覚なのだ。良い子はまねしてはいけない。
オレはしばらくつるつるになった下腹部を押さえながらゴロゴロのた打ち回った。ちんちんもびくんびくんと脈打っている。不気味だ。
「急になんてことするんだ。言ってしまえばオレは全身が弱点なんだぞ。オールウィークポインツ。もっと丁重に取り扱えよ」
なんて偉そうなちんちんなんだ。これほど偉そうなちんちんは20年間生きてきてはじめて見た。控えめなのは見た目だけじゃないか。今度からこいつのことはえらチンと呼んでやろうか。
「何を偉そうに、ちんちんの分際で。お前なんかとは絶交だ。絶交」
「ああ、オレもお前に愛想が尽きていたんだ。せいせいする。これからは自由にさせてもらうさ」
ちんちんはぴょんぴょんと跳ねながら玄関へと向かう。着地するたびにオレの下腹部に心地よい振動が走る。思わず顔がにやけそうになるが、威厳を保つためにオレは必死に口をへの字に結んでいた。
「あばよ」
ちんちんが叫んだ。
「あば…ぁふぅん…よ」
なんてことだ。オレの『あばよ』とちんちんの着地のタイミングが重なり、なんとも見っとも無い声が出てしまった。
しかしちんちんはそれに気付かなかった様子。そのままぴょんぴょんと跳ねていき、見えなくなった。

さて、ちんちんが居なくなってせいせいしたかというと、そうではない。
オレはちんちんの事が心配でたまらなかった。
何せやつはオレと感覚を共有しているのだ。もし誰かに踏まれよう物なら…想像するだけで腹が痛くなる。
それになにより、奴とオレは20年間片時も離れずにこの世の中を生きてきた、いわゆる戦友なのだ。
仕事に疲れた日も、彼女に振られた日も、楽しい日も、悲しい日も、奴を握るとオレは安心できた。奴を擦るとオレは気持ちよくなれたのだ。
「ちんちん…っ」
オレは駆け出していた。ちんちんに会って言いたかった。「オレが悪かった。定位置に戻って欲しい」と。
玄関を開けると、なんとそこにちんちんは居た。
「ちんちん…」
「主人…」
オレは言った。
「オレが悪かったよ。今まで酷使してすまなかった。今度からもっと大切に扱うから、どうかオレの定位置に付いてくれ」
「オレも、ちょっとむきになりすぎたよ。すまなかった」
オレたちはお互いを許しあった後に、合体した。



朝起きると、目の前に大きな尻があった。
このできものだらけの不潔な尻には見覚えがある。昨晩鏡で最近のこいつの巨大化現象をどうにかしたいなぁと考えてきたところだ。
「今度は尻かよ」
オレは大きくため息を付いた。

       

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