Neetel Inside ニートノベル
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「おかえり」
部屋には女が寝そべってサンデーを読んでいた。鍵はさっき開けたからかかっていたはずなんだが。
「何してんの?」
「サンデー読んでる」
「それは見れば分かる」
話の分からない奴だな。そんなじゃ今に男に逃げられるぞ。
「ここに何をしに、どうやって入ってきたのかって聞いてるんだけど」
「え、用がなかったらいちゃいけないわけ? ていうか、あんたが普通に入れてくれたでしょうが」
「入れた覚えはない」
「いやいや、そんなことでしらばっくれられても困るんだけど……あ、ひょっとしてなんかのおふざけ? やめてよ、そういうの私がつまんない」
ふざけてなどいない、俺はいたって真剣である。ついでに言うとそのサンデー、先々週のだぞ。
「で、結局誰なんですかあなたは」
「ねえ、ちょっと……本気で言ってるのそれ」
声の調子が変わった。いいぞ、この調子だ。
「これが嘘を言っているように見えますかね」
「うそ……どうしよう。記憶喪失なんて……病院? それとも警察? 親御さんにも連絡した方が……でもなんて説明したらいいの……」
よし、ここだ。努めて自然な風を装って俺は言った。
「俺は記憶喪失ではない……と思う。しかし、記憶喪失は過去の出来事を復唱すると治ると聞いたことがあるな」
彼女の目が俺の方を見た。「何を言ってやがるんだこのバカは」と目で言っている。ここで怯んではいけない。心を鬼にして俺は続ける。
「もしあなたが本当に俺と旧知の仲なら、何か思い出があるだろう? それを再現してみて欲しい」
彼女は最初黙って俺を睨んでいたが、やがてメモを取り出して何やら書き始めた。
「これ、買ってきて」
「買い物リスト……?」
「あんたんち食材なんにもないんだから、買って来ないと思い出の料理作ってあげられないでしょー? 私は準備しなくちゃいけないんだから、あんたが買ってきなさいよ」
「え、いやでも……」
「ごちゃごちゃ言わない! 自分の記憶ぐらい自分の手で取り戻してこい!」
何故か追い出されてしまった。
「ちゃんと今週のサンデーも買ってきてねー、エセ記憶喪失くん」
うっせーわい。くそ、今日こそは完全に記憶喪失を演じきれたと思ったんだがな……。あと今週のサンデーは合併号でお休みだよ。

       

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