Neetel Inside ニートノベル
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 扉を叩くものがいるので開けてみると、旅装束の身形をした男が一人立っておった。
「旅の途中で日が暮れてしまい、辺りに他に明かりもなく、今日は随分と降りますのでおちおち野宿も出来ません。せめて土間か軒下だけでもお貸しいただけないでしょうか」
 今日の朝からもの凄い雨であった。ここら一帯は雨宿り出来そうな場所もうちの他にはない。旅人がこの辺りで往生するとうちに雨宿りに来るのはよくある事だったので、私貸し出し専用の蒲団と部屋(物置を改造したものだが)を用意していた。
「こんな夜遅くに寒かったでしょう。どうぞ中へ入って、温かいものでもご馳走します」
 私は旅人を中へ引き入れた。

 簡単な食事と茶、風呂を用意すると、旅人は大層喜んで、涙を流して礼を言った。
「どうぞお気になさらず。どうせ一人でいつも寂しく暮らしているのですから」
「いやいやとんでもない、こんなに良くしていただいたことはこれまでありませなんだ。もう何と御礼をしていいやら」
 そう言うと旅人は恐縮しながら物置に下がっていった。これ以上は厄介になれないとでも思ったのだろうか。もう少しぐらい話し相手をしてくれてもいいのに、と私は思った。旅人の話を聞くのは数少ない娯楽の一つだ。しかたない、私も寝る準備をしよう。

 ところが、寝たはずの旅人はすぐにこちらに戻ってきた。
「貸していただいてこんなこと言うのもなんなんですが、蒲団が硬くて硬くて。寝転がっても痛くて痛くて、とても寝られたもんじゃありません。なんとかしていただけませんか」
 確かにうちの蒲団は煎餅布団だが、ここまで言われるのはちょっと失礼な気もする。とはいえ、お客様の頼みとあらば仕方がない。確認してみると、敷布団の中の煎餅が真っ二つに割れていた。なるほど、割れた部分に背中が当たっていたようだ。それは痛い。
 しかたがないので口に含んでバリバリと噛み砕き、割れた部分を丸く補修しておく。早いうちに替えの煎餅を買ってこなければ。
「一応角は取りましたけど、もし他に硬いところがありましたら、恐縮ですけど、ご自分でつばや水をつけてふやかしてくださると助かります」
 そう言い残して、私は部屋を出た。

       

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