Neetel Inside ニートノベル
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 怪しいバイトに応募して向かった先は、絵に描いたような怪しい洋館だった。中から出てきたのはこれまた絵に描いたような怪しい老婆。
「あの、アルバイトで来た久我山ですけど」
「ああ、あんたかい。入っとくれ」
 案内されたのは薄暗い倉庫のような部屋。間を開けて並べられた棚にはボードゲームや双六で使うコマのようなものが沢山並べられていた。
「毛糸を適当に切って、両端を違う人形に結んどくれ。人形の組み合わせはそこの紙に書いてある。間違えんじゃないよ」
 後ろに立っていた老婆がそう言うと、僕に赤い毛糸玉とクリップで纏められた紙の束を手渡した。
「あ、あの……」
「ああそうだ、既に結んである奴は触っちゃダメだよ。何日かけてもいいから、紙に書かれてる分が全部終わったらあたしを呼びな」
 そう言い残して老婆は去っていった。

 バイトを続けて2週間。少し気付いたことがある。
 まずコマだが、一つ一つ通し符号がついている。これが知り合いのイニシャルに生年月日を足したものとやけに一致することが多いのだ。所詮8文字なので被ることもあるとは思うのだが、少し頻度として多すぎる気がする。
 次に、そのコマの符号から連想される人だが、僕がバイトでコマを触ってすぐに付き合い始めることが多い。しかも、相手はこれまた赤い糸で結びつけたコマの符号とイニシャル生年月日が一致する。ここまで来ると偶然では片付けにくい。赤い糸というのもやけに示唆的だ。
 その日僕が手に取ったコマは自分のイニシャルと生年月日と一致する、YK0326。そこでふと思ったのである。
『糸を結んで付き合うならば、糸をほどいたらどうなる……?』
 ずっと気になっているコマがあった。学校一の美少女と名高い中島麗子と同じ通し符号のRN0504。生憎既に違うコマと結ばれていたが、これをほどいて、もし『僕のコマ』と結びつけたら……。
 魔が差した、としか言いようがない。老婆の言いつけは完全に頭から飛んでいた。

 家に帰ると、何故か物凄い騷ぎになっていた。父さんが物凄い剣幕で母さんに食ってかかっているのだ。
「離婚ってどういうことだよ!」
「どういうことも、そのままの意味よ。あっ、陽太〜!」
 玄関に立ち尽す僕に向かって手を振る母さんは、恋する乙女の目をしていた。
「母さん、離婚って……」
「あん。母さんなんて呼んじゃやだ。律子って呼んで」
 僕は母さんの旧姓を思い出した。野本……

       

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