Neetel Inside ニートノベル
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「ずっと前から好きでした!」
 目の前で頭を下げる男子生徒を私はポカンとしながら見ていた。
「ご、ごめん突然こんなこと言って……驚いたよね。気持ちが抑えきれなくて……一目惚れでした」
 男子生徒が長々と語る内容はほとんど私の耳には入ってこない。当然だ。私はこの男のことを何も知らないのだから。
「あのっ、それで、いきなり付き合ってなんて言いません、だけどせめて、連絡先を……」
「気持ち悪い」
 それだけ言い残し、私は立ち去った。

「でもさ、そういうのの相手が実は幼馴染で結婚を誓い合った仲だった……とかだったら面白いよね」
 翌日報告したら、友人がそんなことを言い出した。
「えー、マンガの読みすぎでしょそれ」
「いやいや分からんよー、昔仲良かって、離れ離れになった子とかさ。ストーカー退治の子とかそうやろ?」
 自分で言うのも何だが、子供の頃から容姿端麗だった私は、幼稚園児だと言うのにストーカー被害にあっていたのである。その犯人の園児をやっつけてくれた子がいて、私はすぐに恋に落ちた。……あれ、この話したことあったっけっか?
「もし仮にそうでも、ストーカー退治した子がストーカーになってるとか、ちょっとどころじゃなくイヤやなー」
 私が素直な感想を述べると、友人も「それもそうやね」と同意した。

 友人に『ストーカー』と言ったのはちょっとした脚色だったのだが、どうやら嘘から出た真になってしまったようだ。家の前まで来ると、昨日の男子生徒がいた。
「いやー、苦労しましたよ家を探すのは。まさか引っ越していたとはね」
 恐怖に顔を歪めて後ずさる私にじりじりと詰め寄るストーカー。
「懐かしいなあ。昔もそうやって怖がってましたよね、僕のこと。こう見えても大きくなって多少の分別は弁えたんですよ? 今だって別に危害を加えようというわけじゃない。ただ、昨日だけでは僕の好意が伝わりきってないかな、と思いまして」
 ああ神よ、何も10年越しにストーカーの方に再会しなくてもいいではないか。私は運命を恨んだ。

「ストーカー、撲滅ゥ!!」
 叫び声と共に鈍い音が響く。ストーカーの身体がぐらりと揺れ、どうと倒れた。その後ろには見知った顔が立っている。
「な? あたしのいった通りっしょ?」
 友人は振りかぶっていた鞄を下ろして軽く笑うと、こう付け加えた。
「まあかく言うあたしも、10年越しに同じ状況を再現するとは思わんかったけどね……」

       

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