Neetel Inside ニートノベル
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「では皆さんは、そういう風に川だと言われたり、牛乳の流れた後だと言われたりしていたこの白いものが、本当は何なのか知っていますか?」
 天井に散らばる白い光点。微かに明る暗闇に、私の声だけが木霊する。返答はない。私は続けた。
「そうですね、星です。この天の川を大きな望遠鏡で見ますと、小さな小さな星が集まって出来ているんですね。肉眼で見ただけではただの白いモヤモヤにしか見えませんが、その一つ一つが、私たちが普段目にする北極星や夏の大三角、そして太陽なんかと同じ、あるいはもっと大きな、燃える星なのです」

「お疲れ様でした」
 ブースを出ると館長が声をかけてきた。
「お疲れ様です。何かありましたか」
「プラネタリウムの人にお願いしたいことがあるという子がいましてね」
 そう言うと、館長は後ろにいた子供に手招きした。見た目は小学校高学年ぐらいの男の子だ。緊張しているのか、目線を下げて黙りこくっている。
「どうしたの? 何か分からないことでもあったかな?」
「……妹に」
 男の子は視線を合わせないまま呟いた。
「妹に見せたいんです」

「では皆さんは、そういう風に川だと言われたり、牛乳の流れた後だと言われたりしていたこの白いものが、本当は何なのか知っていますか?」
 暗幕に覆われた部屋はかなり暗いが、それでも夜の闇には程遠く、時折向こうの光が透けて見える。天井には彼がうちの職員の指導の元両親と作った手製の……星空。暗幕の上に蛍光シールを貼っただけの簡単なシロモノだ。本物とは勿論、プラネタリウムとも再現性では比較にならない。それでも今の私には、それが素晴らしくきらびやかで、美しい星空に思えた。
 プラネタリウムと同じようにしばらく声を止める。返答はない。あるハズがないのだ。私は続けた。
「そうですね、星です。この天の川を大きな望遠鏡で見ますと……」
 不意に声が詰まって出なくなる。両親のすすり泣く声が聞こえてきた。思わず貰い泣きしそうになったが、男の子の頼みを思い出す。
「いつも通りでお願いします。普段のプラネタリウムを教えてやりたいんです」
 私はこらえて続けた。
「小さな小さな星が集まって出来ているんですね。肉眼で……」
 小さな身体からの返答は、やはりなかった。

       

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