Neetel Inside ニートノベル
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「ウガンダに行きます」
 その突然の宣言に、僕はまぬけな声を出して硬直した。言っていることがよく分からなかったというのもあるが、あまりに出し抜けな、文脈も何もないその放言に、僕の思考は停止し、世界は静寂に包まれた。
 後輩はまっすぐこちらを見ている。その真剣な目つきから、冗談で言っているのではないことは明らかだ。
「ウガンダって何?」
 なぜ行くのか。なにしに行くのか。どのぐらいの期間か。なんでわざわざ部屋に先輩を呼び出してそんな報告をするのか。ためつすがめつ、様々な言い回しを試みたが、結局口から出てきたのは至って平凡な問いだった。
「東アフリカにある国の名前です。旧英国の植民地で、その影響からかキリスト教徒が」
「そういうことじゃない」
 不用意な質問で入れてしまった後輩のスイッチを切る。飲み会とかで喋らせておく分にはこういう性質も重宝するが、今はとにかく彼の真意を問い正す方が先である。
 後輩は黙ってまっすぐこちらを見て、僕が喋るのを待っている。
「まず、なんで僕を呼んだの? なんでウガンダに行くことにしたのかも気になるけど、それよりも俺に頼みたいことがあるんじゃないの? それが聞きたい」
 いつにも増して強い眼圧に耐えて、最初の質問をぶつけると、後輩は微動だにせず返答した。
「ウガンダに行くのは海外青年協力隊という奴で、1年滞在します。行くことに決めた理由はまたお話ししますが、先輩に一つ頼みごとがあってわざわざ足を運んでいただきました。
「実はこの部屋の世話をして欲しいんです。ホントはベランダの観葉植物の世話だけ頼むつもりだったんですが、持ち出す時間なくて……いっそ部屋ごと管理してもらえないかな、と。電気ガス水道も止めていただけると助かります。合鍵は玄関のところに置いてあるんで」
「待て待て待て」
「そういうことなんで、悪いんですけどよろしくお願いしますね」
 僕の制止も聞かず、そこまで言うと後輩は沈黙した。
 何かがおかしい、と僕は思った。植物の世話ならいざ知らず、部屋まで他人に託すとは尋常ではない。というか、インフラは自分で止めていけばいいじゃないか。そこまで考えて、僕は自分の目が節穴であることに気付いた。クソッ、先輩をバカにする余裕があるなら鉢植えを自分で運びに来いよ……。

 目の前の後輩だと思っていたマネキンが、胸のスピーカーから嘲笑うように繰り返し始めた。
「ウガンダに行きます」

       

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