パシッ、パシッと水面を叩く音が4回ほど聞こえてから、コツンっと小気味のいい音が1回。
彼が石を拾うたびに、つい「河原から石がなくなっちゃったらどうするんだろう」などと意味のない想像が頭をよぎる。いや、意味がないと言えばこの水切り自体がそうだけど。ていうかこうしてただ見てるだけの私も不毛だけど。
「クソッ、クソックソックソッ」
呪詛のように呟きながら水切りの機械かなにかみたいに石を投げ続ける彼。
彼が怒っているのは何故か、私は知っている。フラれたのだ。大人からすればささいな事かもしれないけど、高校生からしたら人生の一大事である。しかもフった相手が好きだったのが彼の友人で、彼は逆に紹介を頼まれそうになったのだ。私が同じ立場だったとしても怒ると思う。というか、彼、見る目なさすぎだよね。
きっと彼の中には今までにないぐらい暗くて黒い、ドロドロしたものが渦巻いている。見ているだけで分かるほど、それは彼の内側から彼を蝕み、苦しめていた。隣に居てあげられれば、私が柔らげてあげることも出来るかもしれない。けど、そんな間柄じゃなかった。だからこうして、堤防の上から隠れるみたいにして見てるわけだけど。
どっちにしろ黒い感情を抱えてしまったら、それを解消する方法は一つしかない。私は堤防の上から大声で叫んでやった。
「もう全部吐き出しちゃえよ!」
びっくりしてこちらを振り返る彼。目を丸くしてこっちを見てる。
「色々たまってること、あるんでしょ? 全部出しなよ! 出し切っちゃえよ!」
言ってしまってから急激に恥ずかしさを自覚して顔が熱くなる。うーしまった。後悔しかない。
彼がそのまま川に向き直って、顔に向かって手を添えた。未成年の主張の準備だ。そうだ、私が恥をかいたんだから、お前もかけ。
「あいつより俺の方が凄い! テストの点だって、スポーツテストだって俺の方が良かった!」
知ってる。
「性格は悪くねえけど、俺だって別に悪くねえ! 普段の生活で差がつくようなことなんてなかった!」
それも知ってる。
「なんでアイツなんだよ! もっと俺のことも見てくれよ!」
そうだね、本当にそうだと思う。
だからさ。
あんただって、あいつばっか見てないで、もっとあたしを見てよ。
なんて。