Neetel Inside ニートノベル
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 通報を受けて交差点へと急行した警官は当惑した。事故車両はおろか、痕跡らしきものすら全く見つからない。イタズラ通報ならまだしも当事者らしき人達は道路脇にいて、「そっちがぶつかってきた」「ぶつかってきたのはアンタだ」などとやり合っている。
「あ、ここの司法当局の方?」
 老婦人が気付いて声をかけてきた。もう片方の中年男性が「バカ、ここじゃ警察って言うんだよ」と小声で訂正する。どちらも耳が尖っているのが気になった。
「ああそうそう、警察の方よね。ワタクシ先ほど連絡しました者です。ごめんなさいねこんな夜遅くに」
「あーはい、そのことなんですが……事故した車両はどうされました? 一応実況見分しないといけないんで、すぐ動かされるとちょっと困るんですが……」
 警官がそう言うと、二人は不思議そうに顔を見合わせた。
「車両? ワタクシのはそこにありますわよ? あなたどこかへやりました?」
「いんや? どっちも事故った状態のまま置いてあるぜ」
 二人が指す方を見るが、やはり自動車らしきものは影も形もない。これはちょっと厄介事のようだと警官は思った。見た感じ周囲に影響があるわけでもなさそうである。適当に話を合わせて帰ろう、上にはイタズラだったと報告しておけばいい、そう警官は判断した。
「では調書取りますんで、お二人の証言をお願いします」
「兄ちゃんさっき、車がなくちゃ調べられねえっつってたじゃねえか、先に車を調べるんじゃねえのか?」
 ああもう、面倒くさいな、と警官は思った。
「分かりましたよ。じゃあ車両検分しますから透明化を解除していただけます?」
 二人は一瞬きょとんとしたが、バッグから何やら取り出して確認するとサッと青ざめた。
「不味いですわ、光学迷彩が透明化に設定されたままですわ」
「ちょいちょい待てよ、この辺りじゃ透明化は実用化されてねえぞ! ていうかなんであの兄ちゃんはそのこと」
「お二方? 疑問があるなら署の方で……それとも第三種接近遭遇としてしかるべき部署に通報した方がよろしいですかね?」
 警官の笑顔の威圧に縮み上がる二人。
「け、結構です!!」
「いらん! 俺は帰る!!」
 泡を食ってステルス宇宙船で逃げ去る二人を目で追いながら、ぼやく警官の耳は尖っていた。
「駄目でしょ、素人がこんな辺鄙なとこ来ちゃ。せめて光学迷彩ぐらいは使いこなしてくれなきゃあ……ま、これで面倒な調書を書かずに済んだけど」

       

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