Neetel Inside ニートノベル
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「しまった……」
 時計を見た私は飛び上がって呻いた。完全な寝坊だ。今すぐ鞄を引っ付かんで出掛けたとしても間に合うかどうか。そして寝起きのぼさぼさ頭にパジャマ、おまけにこの顔とくれば、そんなことはとても出来ない。
「チッ、しょうがねえ……超特急だ」
 私はいくつかある化粧箱のうち一番上のものを取り出した。

「ごめーん、待った?」
 申し訳なさと愛想を絶妙の割合で混ぜた私オリジナルのブレンドニュアンスを込めながら手を振って駆け寄る。
「普通に待ったよ」
「今日は一段と遅かったねえ」
 幸い待ち合わせした人たちは全員気のしれた友人なので、この程度の扱いで済む。いつも遅刻してると言わんばかりの扱いだが、はっきり言ってそんなに遅刻しているわけではない。いつも5分程度予定時刻から後ろにブレるだけだ。仕事とかでなくてホントによかった。
「あれ、なんか睫毛おかしくない?」
「ほんとだ、ちょっとチークも濃いし」
「あー、ちょっと急いで化粧したから崩れてるかも! 気にしないであとで時間見つけてトイレで直すし!」
 話題が顔の方に逸れそうになったので慌てて誤魔化した。危ない危ない。なんで今日に限ってそんなに鋭いのだろう。本当に一旦大きな鏡で確認した方がいいかもしれない。
バッグの中から手鏡を取り出そうとしていた私の頭に、ポツン、と冷たいものが当たる感触がした。
「あ、雨だ」
 友人の一人が空を仰ぎ見て呟く。
 雨だと。雨はマズい。そういえば昨日の夜の天気予報でそんなようなことを言っていた気がする。だから今日は絶対早起き必須だったのに。しかしいくら嘆いてみても後悔は先に立たず、肩や髪がどんどん雨に濡れていく。
「と、とにかく、早く、雨宿り!」
「あ! ちょっと、勝手に行かないでって」
「待ってよ〜」
 雨の勢いはどんどん強くなる。本格的な振り方だ。もはや一刻の猶予もなかった。他の人の返答も聞かず、手近にある喫茶店に向かって突進する。少し驚いた顔をして店員に案内され、席に座ってようやく一安心。
 かと思ったら、後からついてきた友人が驚きの反応を見せた。
「あんた、顔が! 顔が溶けちゃってるよ!」
「取りあえずタオルで水気だけ拭いていったら?」
「ちょ、自分で出来るから! 離して!」
 抗う間もなく顔にタオルがかけられる。そして露になる私の顔。そこには何もなかった。
「うわっ、のっぺらぼう!?」
「だから止めてって言ったのに……」

       

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