Neetel Inside ニートノベル
表紙

見開き   最大化      

 受付に葉書を渡して中に入ると、すぐにお目当ての相手を見つけた。もうあれから20年以上経つというのに、全く変わっていない。見た目だけの話ではなく、ああしてクラスの中でもイキってる連中に囲まれて、いじられているところまで、中学生時代そのままだ。懐かしさを通りこして、周りの奴らの精神年齢の方を心配してしまう。
「みんな、久しぶり」
 なるべく自然な風を装って集団に声をかけると、連中は怪訝そうな顔をして振り返った。
「なんだ? アンタ、誰だっけ? あたしらに何か用?」
 リーダー格の女が代表するかのように私に向かって言った。スガワラさん、だったっけ。今の見た目は当時と比べれば大分落ち着いているけど、それでも言い訳せずにはいられない凄みのある視線は健在だった。
 落ち着け、彼らが変わっていなくても、私はこの20年で変わった。私は視線の力を振り切ると、奥にいる彼にも聞こえるように言った。
「うん、アオキくんと話がしたくて。悪いんだけど、ちょっと借りるね」
 一瞬の沈黙。スガワラさんが何か反応する前に私は素早く身を割り込ませると、アオキくんの手を取り、元居た方へ歩き始めた。

「ちょ、ちょっと、サオトメさん!?」
「変わらないね、中学の頃から。またスガワラさんたちに苛められてたの?」
「……」
 誰よりも身体が小さく、虚弱体質で、いつも苛められていたアオキくん。でも彼は、数学では天才だった。いつも暇さえあれば勉強していて。それが身を結んで、今や日本でも指折りの投資家・実業家となっていることを私は知っている。
「アオキくんは見てて危なっかしいのよ。得意じゃない分野が絡むと、すぐやられちゃいそうで。だけど、中学の頃は、貴方を助けられなかった。私、貴方を支えてあげたい。あんな、低俗な連中を貴方が相手にする必要なんてない。全部私が守ってあげる。お願い。私を貴方のそばにいさせて」
「低俗、ね」
 アオキくんの声のトーンが変わった。
「サオトメさん。僕思い出したよ。いつも僕が苛められているのを後ろの方で黙ってみていた。その冷たい目、よく覚えてる」
「ア、アオキくん……?」
「僕のお金が目当てなの? 悪いけど、そういう人には近付かせないように止められてるんだ。スガワラさんにね」
「おーい、アオキ! そろそろ行くぞー!」
「あ、待ってよ!」
 スガワラさんに呼ばれて去っていく彼の後ろ姿を、私は敗北感と共に噛み締めていた。

       

表紙
Tweet

Neetsha