Neetel Inside ニートノベル
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 母さんから貰った煎った大豆を手に玄関に出たら、怪しげなおっさんが仁王立ちしていた。顔はプラスチックで出来た鬼のお面で隠れて見えない。
「あんた誰?」
「俺は鬼だよ」
 僕は「ははーん、そら来たな」と思った。父さんはこういう行事がなぜだか大好きで、特に仮装して参加することに情熱を燃やしている。この間もサンタ帽に赤い服で登場したのに、付け髭がないせいで顔がバレバレだった。今回は鬼のお面を被って顔バレは回避したみたいだけど。
「そもそも鬼って、赤い皮膚で手には金棒、髪の毛はパンチパーマで虎のパンツなんじゃないの?」
「そういうのをステレオタイプと言うんだ。人を見掛けだけで判断してはならん」
 あくまでそういうポーズで行くのか。僕はちょっと父さんを困らせてやろうと思った。
「もし本当に鬼っていうなら証拠を見せてよ」
「証拠だと? 何を見せれば証拠になるんだ」
「そうだな……じゃあ、角。そのお面に描いてある角じゃなくて、ちゃんと額か頭にある角ね。角を出したら本物だって信じてあげる」
 父さんは少し迷うそぶりを見せた。
「いや、角は……今は生えていないのだ」
「またそうやって誤魔化そうとする」
「いや、本当だ。鬼は現世に来るときは人間の皮を被らなくてはならない。だから今の私は見た目は全て人間なのだ。だから角も生えていない。出せなくはないが、人間の皮を破ることになってしまう。それは困る」
「じゃあ、父さんがまた嘘ついたってことで」
「ま、待て。分かった。見せよう」
 父さんは何を思ったかごそごそと頭を掻き上げた。つむじのところを僕に向ける。
「よく見ておけよ」
 そう言うのと同時に、父さん、いや、鬼のつむじがグリグリと盛り上がっていく。人間ではあり得ない身体の動きだ。
「どうだ」
 どうしよう、本物だ。僕は慌ててドヤ声で自慢する鬼に向かって大豆を投げつけた。
「鬼は外!!」
「イヤーッ、グワーッ」
 変な悲鳴を上げて鬼は逃げていった。

 居間に戻ると、母さんが父さんの頭に湿布を貼っているところだった。
「父さん、母さん、さっき本物の鬼が!」
「鬼? 追い払ったの?」
「う、うん」
 そう言ってから急に後悔の気持ちが生まれてきた。折角本物の鬼に会えたんだから、父さんや母さんに見せても良かったな。
「また会えるかな」
 そう呟くと、父さんが言った。
「なに、すぐ会えるさ。なにせ俺の息子だからな」

       

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