Neetel Inside ニートノベル
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「今週もようやく終わりかー。どっか行く?」
「おっ、いいね。いつ上がる?」
「あと1、2時間ぐらいしたらかな。メガネバー行こうよ」
「メガネバー?」
 一瞬メガネのつるを刺したアイスバーを想像し、顔を顰めた私を友人は面白そうな目をして見ている。
「何よその目は」
「また変なこと考えてたでしょ」
「そ、そんなことより」
 私は話を戻した。
「メガネバーってなんなの。教えてよ」
「説明してもいいけど、行ってみた方が早いよ。こっちの上司がハマっててさ、頼めば連れてってくれるんだよね。だから懐も痛まないしさ」
「なるほど」
 どんな場所かは分からないが、タダで飲み食い出来るというなら行かない手はない。

 ところがこの約束、僅か2時間で反故にされてしまう。
「上司がね、『あそこはヤバい、絶対に行くな』って……先週あんなに勧めてきて何度も連れてってくれたのに」
「まあ、いいよ……そんなに大した値段じゃなければ」
「それは大丈夫。こっちよ」
 友人の先導に従って入った店は、一見ごく普通のバーであった。ただ一点、全ての店員がメガネをかけているということを除けば。
「これだけ?」
 私が問うと友人が頷いた。
「そう、これだけよ。なんてことないでしょう?」
「なんてこともないって……。わざわざこの店にしたってことは何かこう、推し要素みたいなものがあるんじゃないの?」
 当然の疑問をぶつけたのに、友人は怪訝そうな顔をした。
「普通の値段だし、ご飯も美味しいし、その時点でそこらへんのバーと変わらないわけよ。だったらプラスメガネの方選ばない?」
 友人の口調が激しくなっていく。私は少し怖くなってきた。ふと、友人の顔にメガネが乗っていることに気付く。はて、彼女は裸眼だったハズだが。
「あれ? そういえばあんたメガネしてた?」
 話題を逸らそうと指摘すると、友人は急にニコリと笑い、愛おしそうにフレームを撫でた。
「これ、伊達なの。ここで貰ったのよ。これもメガネバー推しの理由の一つね」
「伊達? 貰った?」
「貴方にもすぐに分かるわ。マスター、この方にメガネを」
「畏まりました」
 まるでバーで飲み物を奢るような感じでメガネを注文する友人。あっけに取られた私はその時、カウンター奥の標語に目を止めた。
 そこにはこう記されていたのだ。

『全ての人にメガネを。人類メガネ計画の成就こそ我らの目的』

       

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