Neetel Inside ニートノベル
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 マメおじさん(何かにつけまめな人なので、親戚は彼をそう呼んでいた)の持ってきた土産は、一口サイズの餅のようなものの詰め合わせだった。
「これ、何です?」
「豆大福だよ」
「見た感じ、豆らしきものは何もありませんけど」
「ああ、そっちの豆じゃない。ちょっと見ててごらん」
 おじさんが背広の中に手を突っ込むと、なんと黒光りする拳銃を取り出した。私は慌てた。
「ちょ、ちょっと、なんてもの持ってるんですか。やめてくださいよ」
「怖がるなよ、別に撃ちゃしないさ。ほれ、こうして」
 おじさんは軽い調子でそう言うと、拳銃を机の上に置く。更に『豆大福』を一つつまみ上げると、拳銃の上にちょこんと乗せた。
「何してるんですか」
「まあ、見てな」
 それは、全く不可思議な現象だった。『豆大福』が拳銃の中へとゆっくり沈み込んでいく。『豆大福』が完全に拳銃に溶け込んでしまうと、拳銃はまるで何か耳障りな音と悲鳴を上げそうな様子でぶるぶると銃身を震わせながら縮んでいく。変化が終わると、おじさんは拳銃をつまみ上げた。拳銃はクレジットカードほどの大きさになっていた。

「豆という接頭語には、『小さな』という意味もある。君たちの世代には『スモールライト』と言って通じるのかな?」
 おじさんが顔を歪めて笑った。私は本能的な恐怖を感じた。この人は私に何かしようとしている。私という存在を、何かの実験に供そうとしているんだ。その『何か』が何であるかは、さきほどの出来事を見れば一目瞭然だった。
「フフフ、そうだよ。その顔だ。でも君は逃げられない。さあ、せいぜい逃げ回って楽しませてくれ」
 いつの間にかおじさんの手には『豆鉄砲』がいくつも握られていた。それらが一斉に『豆大福』を噴く。避けられない……そう思った瞬間、茶色い風が私の前を通り過ぎた。
「タロ!」
 子供の頃から一緒にいる柴犬だった。私を庇い、大福まみれになって目の前で倒れている。あの立派な身体も、じきに豆柴と呼ばれるサイズを越えるだろう。『豆大福』のせいで。
「ほう、忠義な犬のお陰で命拾いしたね。見てご覧、可愛い『豆柴』だ」
 おじさんは興味深そうにタロが縮む様子を眺めている。タロが作ってくれたチャンスだ。今しかない。私は机の上にある『豆大福』を箱ごと掴むと、奇声を上げながらおじさんの顔に叩きつけた。
 縮んでいくおじさんを見ながら、私は、『これで良かったんだ』と思った。

       

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