Neetel Inside ニートノベル
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 路地裏に入ると、そこはきらびやかな表通りとはまるで違っていた。ただでさえ道幅が狭いビルとビルととの間にが積み上げられる、ガラクタとおぼしき壊れた電化製品や『表の』店から出たマネキンなどの産業廃棄物、入っているものを想像したくもないような悪臭を放つ怪しげなコンテナ。その隙間をテトリスのブロックを埋めるかように、大量のゴミ袋や薄汚い人間が鎮座していた。人間たちは揃いも揃って鼠色のボロを身に纏っている。生気の失った目を気だるげにこちらに投げかけているようなのは少数派で、大半は目を開ける元気もないのか、はたまた死んでいるのか、ゴミの山の合間合間に倒れ込んでピクリとも動いていない。薬と暴力のはびこるスラムですらもう少し活気に溢れているだろう。ここを支配しているのは完全なる怠惰と停滞であった。
 辺りにガランガランとやかましい音が響き、停滞は突如として破られた。上を見れば、音源である大小様々のゴミが振り注ぎ、ゴミの山の上を跳びはね、転がり落ちていくのが分かった。『配給』の時間だ。といっても、具体的に時間が定められたり規則で決まったりしているわけではない。その実態は、ビルにいる『上層階級』の気まぐれなゴミ捨てだ。ゴミの雨が止むと、辺りは再び停滞に包まれた。ゴミ山の一部を為す人々は相変わらず身じろぎもしない。或いはゴミに打たれて死んでしまった人もいるのだろうか。
「何しに来たんだい、兄ちゃん」
 後ろからかけられた声に振りかえると、やはりこのゴミ山の住民と思しき年配のご老人である。やはり鼠色のボロを着ているが、その目は虚ろに濁ってはいるが、しっかと私に向けられていた。
「ここは兄ちゃんのような人が来るところではねえでよ」
「不思議ですね、ゴミ山の住民が縄張りを主張するとは」
「それはそうよ。ここの連中は確かに皆生きる意味や希望を失っている。そのうち死ぬだろう。けど、ここがなくなればやっぱりそれだけ苦しくなるんだ。同じ死ぬにしても少しはラクに死にたいのさ」
「そのラクさを分けて欲しいんですよ」
「あ?」
 私は服を脱ぎ始めた。
「お、おい、突然なにを……」
 手にしていた紙袋に着ていたスーツを入れ、代わりに鼠色のシャツとスウェットを取り出す。丁寧に雑巾掛けして用意した特注のボロ布だ。それらをすっかり身に纏ってしまうと、老人に向かって頭を下げた。
「今日からお世話になります」

       

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