気付くと、俺はカウンター席のようなところに突っ伏していた。ガバと起きて当たりを確認する。飲んでいた店ではない。内装やカウンターの中を見る限りどうやら喫茶店のようだ。手元を見れば、マグカップ入りの冷めきったコーヒーが2つ並んで置かれていた。
「ようやく起きたのね」
右後ろから声がしたので振り返ると、世話焼きで有名な女の先輩がハンカチで手を拭いていた。
「あー、なんか迷惑かけました?」
「そりゃもう。ここにどうやって来たか全然覚えてないでしょう?」
「正直さっぱり……」
「じゃあ教えてしんぜましょう。ベロンベロンになってた貴方を私が必死の思いでここまで運んであげたわけ。理解した?」
先輩は僕の隣に座るとマグカップを手に取り、こちらをジッと見つめた。
「理解しました」
「ではなにか言うことがあるのではないかね?」
「ありがとうございました先輩。この御恩は一生忘れません」
「よろしい」
先輩は満足げにコーヒーを飲み干すと、すっと立ち上がった。
「さ、貴方も起きたことだし、出るわよ」
「え、もうですか?」
腕時計を確認したが、まだ始発までは1時間近くある。
「何言ってんの。もうギリギリよ。それにここもうすぐ閉店なの」
先輩はさっさと会計を済ませて出ていく。俺は慌てて後を追った。
店の外はだだっ広い広場のような場所だった。辺りを赤茶色の建物が囲んでいる。一面だけ開けているところからは、遠く広がる水面が見えた。
「……赤レンガ倉庫?」
口から思わず声が漏れる。
「そうだよ。ほら、ちゃっちゃと歩く」
先輩が向こうから呼びかけているが、俺は混乱した頭を整理するので精一杯だった。
だって、俺たちは新宿の飲み屋街で飲んでいたはずなのに。
「君が言ったんだよ」
先輩がいつの間にか戻ってきていた。
「君が言ったんだ。横浜港で朝日が見たいって」
「そうなんですか?」
哀しいことに全く記憶になかった。先輩は俺の手を取ると言った。
「だから早く。もうすぐ日の出だよ」
「あの……」
「なによ」
「なんでわざわざこんなことを?」
俺は先輩の目を見た。
「普通に近くのホテルだか居酒屋だかに突っ込んでいただくだけでよかったんですが」
おでこに鋭い痛みが走った。先輩は片手を構えながらニヤニヤ笑っている。
「それが分からんうちはまだまだ半人前よの」
誰か、この人が何を言ってるのか翻訳してくれ。